第7歩『みんなの優しさと偽物』

「嫌ってる……?」


 大丈夫?と、雪が手を握ってくれる。

 おかげで、少しだけ、気分が軽くなった。


「紗代に何かした訳でも無いし、それに、結果だけ見れば嫌われたのかもしれないけど、だけど少なくとも最初からってのは違うだろ。さっきも言った通り告白されたんだから」

『そうだな。だけど、紅貴を嫌う理由はちゃんとあったんだよ』

「なんだよそれ」

『紗代ってモテるだろ?』


 突然の話題に戸惑いながらも頷く。


『紗代はそれを自覚してた。っていうか、何度も告白されたら嫌でも自覚するんだろうけどな。そして同時にこうも思った。自分は価値が高い存在なんだって』

「価値?」

『女としての価値だな。モテることでステータスが高まるって言うか、だから、逆に自分に対して興味を抱かない、好意を示さない男を嫌い始めたんだ』

「……」

『そしてそんな男にも自分に目を向けさせるんだ。その証拠に、紅貴にちょっかいかけるようになっただろ?何の前触れも無く、突然に』


 教室で本を読んでたら話し掛けられて、そこから趣味が合う事を知って、話す頻度が増えた。そして、紗代からの告白。

 確かに、不自然な程に出来過ぎた流れではあったけど、自然と言われれば自然な流れでもあるだろう。


『あいつの手口なんだよ。自分に興味が無いやつに接触して、それで行為を抱かせる。それで男子が勇気を振り絞って告白してきたらそれを振る。しかも、傷つかないように「まだお互いの事をよく知らないから」とか言って、男子が諦めないように。自分に興味を抱き、好意を示すようにな』

「『最低』」


 女子2人の非難の声が重なった。


「冴島先輩はどうしてあの人の最低で最悪な面を知っていても仲良くしてるんですか!?一気に信頼出来なくなりました!今後一切お兄ちゃんに関わらないでください!」

『待て待て!紗代の本性を知って、本当は2年から関わらないようにしようと思ってたんだって!』


 冴島と紗代は1年の時から同じクラスだったのか。

 通りで紗代との距離感が他のやつより近いわけだ。


『でもさ、だからこそ、俺に出来る事があるなって気付いて。紗代のしようとしていることを邪魔することが』

「邪魔」

『ああ。話し掛けたり、トイレに連れ出したり、移動教室を一緒に、とかな』

「突然絡んできたのはそれが理由だったのか」

『もちろん、それだけじゃないけどな。紗代の事関係ない無しに、友達になる気だったからな!』

 

 照れくさい事を自分で言って、照れている冴島。そんな彼を見て雪は────。


「え、なんですかその顔……冴島先輩まさか、お兄ちゃんのこと!?」

『そんなんじゃないって!』


 2人が言い合っている中、先程から抱いていた疑問を解消すべく、割って入るように発言する。


「その紗代の作戦、俺の場合当てはまらなくないか?紗代から告白されたんだから」


 その疑問に答えたのは隣に座る雪。


「お兄ちゃんが告白しないから予定を変更しただけだよ」


 すると美喜多さんが『そうですね』と話を引き継ぎ、続ける。


『自分から告白し、振る。しかも、浮気をして』


 確かに、そう考えるのが普通だ。

 だけど、分からない事がある。

 告白された際に好意を継続させたままにするような、曖昧な振り方をすると冴島は言っていた。だけど俺へのやり方はその好意の継続も難しい上、紗代自身の悪評が広がる恐れがある。

 それに今付き合っているあの男。あの男もその標的ならそのリスクはより大きく────。


『色々と考えてますね、峰山くん』

「そりゃあな」

『考える事は大切、ですが、今は情報の正確性が乏しいです。先程の私と妹さんの話も現状の情報からくる憶測。その情報が違えば、今から考える事全てが違ってくる。分かりますよね?』

「ああ」

『だから、今は確実な情報だけを集めましょう』


 そう言って美喜多さんは冴島に声を掛けた、質問があると。

 冴島が頷くと、美喜多さんはその質問を口にした。


『あの男は、本物ですか?それとも偽物?』



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