第8歩 『意気地なし』
『あの男は、本物ですか?偽物?』
美喜多さんが言いたいのは、今の紗代の気持ちが本物かそれとも俺と同じく弄ばれているだけなのかということだろう。
その質問に、冴島は苦い顔をする。
『悪いけど、それについては俺も知らない。紗代が付き合い始めた頃に本人から直接そのことだけを聞いたんだ。紅貴の時の俺の行動が怪しまれたんだろうな』
『そうですか。でしたら、冴島君は引き続きスパイとして紗代さんの傍にいて情報を得てきてください』
「冴島がスパイになるのか。かっこいいなお前」
『そ、そうか?』
スパイという響きが気に入ったのか少し照れた表情を見せる冴島。
「あの、今の彼氏が本物か偽物かそんなに大事なんですか?」
そんな中、雪が手を挙げて美喜多さんに質問をしていた。
『もちろんです。今回の件、紗代さんに復讐するにあたって彼氏さんはとても重要な人物になります。考えてみてください。もし偽物の彼氏だとした場合、普通自分が騙されてるって分かれば、彼氏さんは私たちの味方になる可能性があるとは考えられませんか?』
「確かに!」
『逆に、本物の彼氏だった場合俺らの作戦がバレたらすぐに紗代にも伝わって面倒なことになるな』
冴島が得意気に語る。
確かにそう考えると、紗代の彼氏は重要な人物だというのが頷ける。
『だから冴島くんお願いしますね』
『おっけー、頑張ってみるよ』
『さて、次は何について話しますか?』
美喜多さんの進行に他の二人の視線も俺に向けられる。
「じゃ、じゃあ冴島が聞いた俺に関する虚言を教えてくれるか?」
そうして、冴島から聞いた情報はその殆どが雪の予想通りのもので目新しい情報は得られなかった。
『とりあえず、今は情報がもっと必要ですね』
「そうだな。クラスのみんなは紗代の話を信じてしまっているから頼りにならないし下手に動けない」
「お兄ちゃんの身の潔白が証明出来たら何とかなるんですけど......」
再び三人の視線は俺に向けられる。
俺は両手は肩まで上げて、お手上げのポーズをとる。
「よし!じゃあ今日は解散!」
『はい、明日から慎重に情報を集めましょう』
「二人ともありがとう。お陰で気が楽になったよ」
二人と少し話してから通話を終了させる。
紗代に関する俺の知りえない情報を入手することが出来た。しかし、その情報は俺にとってはあまりにも残酷なものだった。
今後、冴島が何かしら情報を入手して言ってそれを俺たちに共有したとして、それは俺にとって喜ばしいことなんだろうか。
知りたくない事実を知って傷つくくらいなら土下座なりなんなりして紗代に頭を下げて、虚言を訂正してもらった方がマシかもしれない。
「お兄ちゃんが今考えてること無理だよ」
「え?」
雪は俺の横で静かにそう呟いた。
「な、なんだよ急に」
「お兄ちゃんが考えてることくらい分かるよ。穏便な解決を願ってるんだろうけど、それは無理だよ」
「......人の心勝手に読むなよ。てか、そんなのやってみないとわからないだろ」
「わかるよ。だって紗代さんが虚言辞めるメリットが何一つないんだもん」
確かに、現状優位に立っている紗代が俺に関する虚言を訂正することも、止めることもどちらにもメリットがない。むしろ、みんなに嘘を吐いていたことが周知されればそれは大きなデメリットになってしまう。
「お兄ちゃん、もうやめようよ。逃げても目を背けても何も解決しないよ」
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