第三話 『2回目の委員会活動』

 2回目の当番は昼休みに割り当てられていた。

 昼食を早めに済ませ教室を出て、図書室に入ると放課後同様静かな空間が広がっていた。

 司書教諭の藤沢ふじさわ先生はオレの姿を見るなり立ち上がり、「よろしく」とだけ言い残して退室した。

 ここを図書委員に任せて昼休みに向かったのだろう。

 藤沢先生が出て行ってから約5分後────美喜多さんが入ってきた。

 挨拶もなく、隣の席に座って持参した小説に目を落とそうとしたので、その前に話し掛けてみる。


「昼休みの図書室────いや図書室自体あんまり来てないんだけどさ、とにかく初めて昼休みに来たんだけど、放課後と同じで凄く静かなんだな、ここ。美喜多さんはよく────」


 無情にも、静かな空間には美喜多さんがページを捲る音が嫌に響いた。

 興味が無い、そういう返答なのだろうか。

 諦めずに別の話題を振ってみたが再び無視をされてしまって心が折れてしまったので、仕方なく席を立ち、室内の見回り兼暇つぶしの本を探す散歩に出る────つもりだったんだけど、予想外な出来事が起こった。

 図書室の本来の在り方を誤解しているような発言に聞こえなくはないが、それくらい静かで出入りの無い、静かな図書室というのを理解していただきたい。

 図書室の扉が開き、入って来たのは3年の先輩3人組。


「図書室なんて来たのいつぶりだっけなぁ……懐かしいぜ」

「俺も1年の時以来かもな。じんは?」

「俺は偶に来てるよ。静かで、居心地いいから」

「勉強しに?」

「ああ」

「すげー、俺、音楽とか付けないと勉強出来ないんだよなあ」

「大丈夫かよ高校3年生」

「そこを何とかするのが俺よ!」


 賑やかと言うより騒がしい。図書室では静かにするのが常識として身に付いていないのか、静寂に包まれていた室内を完全に壊していた。それは図書室を静かで心地いいと言っていた、陣と呼ばれた先輩も同様に。

 

「絶対嘘だろうな」


 3人に聞こえないよう小声で呟きながら、美喜多さんに忠告をしておこうと視線を向ける。変にあの3人を注意しに行って面倒な事になれば教師が居ない今、大事になる可能性が無くはないから。


「あれ?」


 しかし、美喜多さんの頭があった位置に、それが無く、椅子にも座っていない。

 隠れるようにして、受付の机の下で身を丸めている。外からその姿が見える事は無いだろう。


「お願いしていいかな?」

「あ、はい」


 声を掛けられ、3人分の処理を終わらせる。最後の1人を終わらせると「ありがとう」とお礼を残し、再び騒がしく図書室を後にする。各々借りて行った本は参考書だった。


「そういえば」


 3人が去ったことで、ふと、思い出す────「男が嫌い」そう言っていた美喜多さんの事を。加えて「そういう男子が居ることは事実ですが」とも言っていた。実際、彼女は今────震えていた。

 男が嫌い────ただ、それだけとは思えなかった。


「もう、あの3人は帰ったぞ。必要なら保健室までついて行くけど?」

「……大丈夫です」


 ゆっくりと机の下から出て来て、深呼吸をする。


「お恥ずかしいところをお見せしました」

「……本当に大丈夫か?」

「はい。なので、忘れてください」

「今後、この事は聞かないから教えて欲しい。同じ学校に居る怖い先輩に警戒していたいからな……あの中の誰だ?」


 美喜多さんに酷い事をしたのは────。


「木下……陣」


  *


 半年前の記憶を振り返り終えた俺は、放課後、美喜多さんを図書室に呼び出していた。

 図書委員は、既に、帰ってもらっている。


「この後予定あって、それまで暇だから、代わるよ」


 と、当番の二人に言ったら、嬉しそうに図書室を後にしたのだ。

 その二人と入れ替わるように、美喜多さんが図書室に姿を現した。

 

「ごめん、急に呼び出して」

「こうして、わざわざ足を運んだんですから、もし、メッセージだけで済むような内容だったら……その時は、覚悟してください」

「そんな内容なら、美喜多さんを呼び出すなんて、恐ろしく勇気と覚悟のいることしないよ」


 美喜多さんは、明らかに機嫌が悪そうに、いつもの席に座った。


「受付の人たちは?」

「帰ってもらったよ。大事な話をしたかったから」

「え、もしかして私これから告白されますか?流石に切り替えが早すぎますよ」


 俺は首を横に振って否定する。


「美喜多さんに聞きたいことがあるんだ」


 いつになく真剣な表情と声色からなにかを察したのか、聞く姿勢を取ってくれた。


「美喜多さんは今回の件、何を知ってるの?」

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