第10歩 『動く』
『で、グループは作ったけど、何する気なんだ?皆混乱してるぞ』
『真実を話す』
『真実?』
『紗代の虚言を訂正するんだ』
冴島に頼んで女子と、俺と冴島だけのチャットグループを作成してもらう事に成功し、後は俺が真実を話し始めるだけ。
『出来るのか?』
『男子ならともかく、女子だけなら』
男子からは絶大な人気を誇る紗代だけど、女子からは良くは思われていない。その証拠に、休み時間を含めて、紗代に話しかける女子は1人もおらず、代わりに陰口が聞こえてくる事が何度もあった。
『そこまでの自信があるなら止めない───けど、助けが欲しかったらすぐに言ってくれよ。フォローするから』
『ありがとう』
俺もグループチャット内に入ってみると、既に何人かの女子がメッセージを書き込んでいて、冴島の言う通り、混乱を招いてしまっているようだった。
美喜多さんももちろん参加しているが、何もメッセージを書いてはいない。
現状を察して、見守ってくれているのかもしれない。何の根拠も無いけど、そう思った。
「さて」
そろそろ始めよう。
『突然だけど、この動画を見て欲しい。俺と、紗代の件について、みんなの誤解を解きたいんだ』
メッセージを送り、動画も送る。雪が撮ってくれた、決定的な証拠動画を。
『なにこれ?』
『え?これまじ?』
『どゆことなん?』
『合成か何かじゃないの?』
『でも、声も二人とも本物っぽいし、てか誰が撮影してるの?』
先程とは違う混乱を招いてしまったことに多少罪悪感を覚えながら、みんなが信じてくれることを祈る。
『そんなことだろうと思ったよ』
皆が疑う中、俺のことを信じてくれたようなメッセージを送ってくれた人が一人。アカウント名を確認すると、『M.Y.』となっていて、おそらく、イニシャルをアカウント名にしているんだろう。
「吉田さん、だよな?」
俺の記憶が間違っていなければ、俺のクラスの女子に、イニシャルに当てはまる人は、一人しかいない。
もし、本当にアカウント名がイニシャルなら、彼女の他に居ないという状況は、かなり心強いものがある。
そして、その答え合わせも、直ぐに出来てしまうだろう。
『やっぱり』
『嘘だったんだ』
『最低』
『本当に顔だけの女』
予想通り、吉田さんに便乗する形で、みんなが紗代の悪口を次々に送り始めた。やっぱりこのアカウントは、吉田さんのもので間違いがないらしい。
「吉田茉莉先輩、後輩にも有名なんだよ!この前、うちのクラスの男子が告白しようとしたら、よくわからない女子軍団に全力で妨害されたって聞いた!」
「知ってるよ、ちょっと困ってたな」
「えぇ?!お兄ちゃん、吉田先輩と仲いいの?!」
そんな会話を以前、雪とした記憶が蘇る。
もしかして、紗代より人気があるのでは?と聞くと
「紗代さんって、なんか裏がありそうな気がするんだよね───なんとなくだけど」
なんて言っていた。
『この動画から察するに峰山くんと桐谷さんが付き合っていたのは事実で、その理由は峰山くんのストーカーまがいの行動が原因というわけではなさそうだね』
俺の送った動画を冷静に分析する、吉田さん。
あれは半年前───
『やっべぇぇぇ!女子から放課後呼び出されたよ、どうしよぉぉぉ?!』
『お、おお落ち着いて!陰キャのお兄ちゃんにそんなことあるわけないじゃん!相手は誰?!』
『桐谷 紗代っていうクラスの女子!なんか最近めっちゃ話しかけられるんだよ!』
『えぇぇぇ?!あの桐谷先輩?!絶対罠だよ!!』
『まさか、告白とか......』
『いやいや、ないから!告白されても罠だから!わかった、場所教えて!私が何かあった時のために見張っとくから!』
『恥ずかしいわ!』
結局雪は俺と紗代を見つけ出し、その光景を
「大事な証拠だからだめ!」
と断られてしまった。
今思えば、雪はずっと紗代のことを疑っていたのだろう。そしてその動画が今まさに証拠として役に立っている。後で、雪を褒めて撫でてあげよう。
『きみは見たところ桐谷さんには興味がなかったように見えたんだが』
『それに関してはすみません。女子から告白されたのが初めてで舞い上がっちゃって、断る理由も思いつかなくて』
『そうか』
吉田さんは俺に対して、軽く嫌悪感を抱いてしまったもしれない。良く知らない相手と、告白されたからという理由だけで付き合ったのは正しいこととは言えない。
『謝ることじゃないよ。気持ちは分からないでもない』
こういうところが彼女が人気を集める理由なんだろう、俺の気持ちを察して即座にフォローをしてくれる。
『そうだよ!仕方ないよ』
『まぁ、顔だけはいいからね!』
『ドンマイ!』
『男子なら仕方ないって!』
またも、吉田さんに便乗して他のクラスの女子からもフォローされる。
『ありがとう』
『それで?峰山くんの目的はなんだい?』
『目的は達成したよ。みんなの誤解をなくしたかっただけだから。集まって、話を聞いてくれて本当にありがとう!』
『わかった。私はきみを信じるよ』
次々に『私も信じる!』という意味の言葉が送られた。
*
『よかったですね。信じてもらえて』
『信じて貰えなかったら冴島に頼る予定だったから、結局は何とかなっただろうけどな』
冴島の持つ、紗代が付き合い始めたのは1カ月前という情報は大きい。
それで、俺から助けてくれたから付き合ったという情報の正確性が失われるからだ。クラスメイトから信頼の厚い冴島からの情報なら疑われることも無いだろう。
『美喜多さんもありがとう』
『私は何もしていませんよ。お礼を言うなら吉田さんと、あなたの大好きな妹さんにしてあげてください』
『余計な言葉が混じってるが、そうするよ。おやすみ』
『はい、おやすみなさい』
美喜多さんと個人間での連絡を終えると、今度は冴島と吉田さんにもメッセージを送る。
『ありがとう、本当に助かった!』
二人ともすぐに返信をくれて『いいってことよ!約束したろ協力するって!』と冴島からの返信。なんか冴島がかっこよく思えてきた。
『すまない、きみが傷ついている間に何もできなかった』
『いやいやいや、吉田さんが謝ることじゃないって!』
『桐谷さんの話が合った手前、教室で突然私がきみに話しかけるのは更なる誤解を招きかねないと思ったんだが、そんこと気にせずきみに声をかけるべきだった』
『大丈夫だから!その気遣いが凄く嬉しいから!』
『それだと私の気が済まない。罪滅ぼしとして、紗代さんとのことで、いいやそれ以外でも困ったことがあったら私を頼って欲しい』
『そんな、罪滅ぼしだなんて』
『じゃあ、いつもの恩返しというのはどうだろうか。きみのおかげで私は安らぎを得ているんだ。このままだとあの安らぎの時間が脅かされる可能性もある。だから協力させてほしい』
『確かに俺もあの時間が誰かに邪魔されるのはごめんだ。わかった、よろしく頼むよ』
『あぁ、任せてくれ。それと、今後も辛いことがあったらなんでも相談に乗るから。せっかくこうしてきみの連絡先を知れたことだしね』
『あ、ありがとうございます』
『敬語なんてよしてくれ、私ときみの仲じゃないか』
「いや、イケメンすぎんだろこの人!!!!」
「わぁっ!びっくりしたぁ!」
冴島のことをかっこいいと思ったなんて嘘だろ!
本物が、本物のイケメンがここにいるよ!
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