第3歩『予想通りの教室内』

 勇気を振り絞り、紗代の事は考えず教室に入ると、反応が二極化していて、女子は変わらず、男子からは睨まれた。いや、よく見ると、男子の一部────男子のリーダー的存在である冴島さえじまだけは、数人の男子たちと変わらず談笑を続けていた。

 この視線に対し、どう反応をしたら良いか、どう反応すれば罪を犯した自覚があると誤解されないか、それを考えながら自分の席に座ると「おはようございます」と隣の席の住人から挨拶をされた。


「お、おはよう、美喜多みきたさん」


 他のクラスメイトとは違い、いつも通りの態度で接してくれて、少しだけ気分が楽になった。

 彼女とは同じ図書委員に所属したことがきっかけで話すようになった、数少ない友人だ。


「今日はどんな本をお読みで?」

「あなたに説明したところで到底理解できるものでは無いので、説明するだけ無駄です」

「教えてくれるまで聞くって言ったら?」

「はあ……」

 

 仕方がない、とタイトルだけ教えてくれた。

 それだけで内容が分かる訳では無かったが、今度、読むことは出来る。貴重な友達だ。そういう接点も、こういう接点も大切にしていきたい。

 それに、今の会話で一つの希望や期待が生まれた。 

 もしかしたら美喜多さんなら俺の話を信じてくれるかもしれない、と。


「……あまり熱心に私の事を見つめられると、照れてしまいますよ」

「真顔で思っても無い事言うなよ」

「鬱陶しいので見ないでください」

「優しの出し方が極端すぎるわ」


 傷つけない目的ならもっと中間、普通に用件を聞くとかに止めて欲しい。

 信じず否定して本音を言うまで容易に予測できる流れなはずだ。


「……」


 お互いから会話が生まれる事が無くなったので、何となく教室内に視線を向けてみる。先程の様にこちらを睨む目は一切が無くなった。

 紗代の話を疑い始めた────という訳ではないと思うが、どうしたんだろうか。

 それに、どうして誰も直接的な接触をしてこないのか、それが分からない。

 俺なんて怯える対象で無いのはクラス全員が知っている事のはず。

 その事を雪にメッセージを送って聞いてみると────。


『紗代さんの秘密がどんなのか分からないからね。刺激しないようにってお願いをしてるかもしれないし。どっちにしても油断しない方が良いよ』

 

 と返ってきた。

 可能性は十分にある事と受け止め、一日様子を見る事にした。

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