第2歩『誰もが羨むカップル』
翌朝。
同じ学校に通っているから一緒に登校しているというだけ。
その事に、今日は感謝しないといけなかった。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ああ」
学校の正門が見えてくると人だかりが出来ていて、みんなの視線を追うと、そこにはギャラリーなんて気にしていない様子で歩く────昨日と同じ雰囲気を放つ紗代とあの男が並んで歩いていた。
「大丈夫?」
「泣きそう」
「抱きしめてあげようか?顔隠せるよ」
「トイレで泣く方がマシ───痛い痛い、悪かったって」
蹴られた。
こうやって話す相手がいるから衝撃が和らいでるけど、それでも、昨日とは違い、確実な事実として襲ってくる目の前の光景に、鼓動が早まり、体温が下がる感覚に襲われてはいる。
雪が居なかったら泣き崩れていたかもしれない。
いや、泣き崩れてた筈だ。
「どういうこと?あの二人、付き合ってるの?」
「嘘……信じられない」
「でも、美男美女で、悔しいけどお似合い」
「羨ましい」
「クソっ!結局イケメンか!」
「紗代様……」
生徒から各々驚きや嫉妬、怒りや悲しみといった様々な感情を含んんだ言葉が飛び交い、目の当たりにした事で紗代との関係を秘密にしていて良かったと実感することが出来た。
しかも、周りの反応からあの男はイケメンという評価を得ているから、もしあそこに冴えないオレが歩いてたら、暴力沙汰に発展した可能性を否定できない。
「それにしても、こんなに見られて、紗代はまだしもあいつも堂々としてるな」
「……正直予想外の出来事過ぎて、紗代さんの意図も、あの先輩が何者なのかも分からないけど─────」
男のネクタイの色で先輩だって事は分かる。
その先輩と紗代の2人を鋭くなった目で睨みながら雪は言った。
「お兄ちゃんの事、完全に舐めてるって事だけは分かるよ」
認めたくないけど、認めないといけない。
別れてもない彼氏と同じ学校に通っているのに他の男と登校してくるなんて─────雪の言葉を否定できる要素が思いつかない。
「お兄ちゃんが何も出来ないって、何もしないって、そう決めつけてる。じゃないと、お兄ちゃんのスマホには、メッセージのやり取りや写真が沢山残ってるのに、こんな大胆な事出来ないはずだから」
3か月、実際には2か月の付き合いだったけど、その短い間でも紗代はオレの事を十分に理解してくれていたみたいだ。
僅かにだが嬉しい気持ちが湧かなくはない。
「とは言え、怒った人間が冷静な分析通りな動きをするって確証は無いから、保険くらいは用意してると思うよ」
「保険?」
「もし、私が紗代さんの立場なら……そうだね、自分を被害者にするだろうね」
「被害者」
雪が頷いて「例えばさ」と自分の推測を語り始める。
「お兄ちゃんをストーカー扱いするとかね。身を守る為に、仕方なく付き合ってた、みたいな」
「うわ」
背筋に悪寒が走った。
「それで、助けてくれたのがあの先輩だって事にすれば、ほら、自然な流れじゃない?」
「紗代のファンも、それなら暴走を抑えられるって手筈か」
怖すぎるだろ。
「ただ安心していいのは、男子はあれだけど、女子は紗代さんの話を簡単には真に受けはしないと思うよ。嫌われてるから」
「嘘って証拠があれば問題ないって事だな」
「良かったね、図書委員の仕事してて」
「あぁ、確かに。紗代は部活入ってないからストーカーは難しいか」
「登校は私としてるのを、何人か私の友達が知ってるし、土日限定のストーカーって事になるね」
「そこは……家に居る証拠とか、ドラマでよく見るけど出せないな」
「私の友達くらいは信じてくれるかもね」
「交友関係が少ないのがこんなところで不利になるんだなぁ」
少しの希望と不安を抱えながらも、気持ち的には落ち着くことが出来たので、気を遣ってくれた雪に感謝し、互いに教室へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます