第0歩『歩みが止まった夜』

 夏の残り香が消え、19時ともなれば空は暗く、肌寒い風が吹き始める。

 この季節になると、散々歩き慣れた道も姿を変え、街灯だけが道を照らしている所為で妙な不気味さを醸し出し、自然と足も早足になる。

  

 そんな暗い住宅街の中に、異常な存在感を放つ建物がある。

 それはスーパーでも無ければ、ゲームセンターでも無ければ、高級マンションでも無い。

 

 住宅街の中に佇む、小さな子どもが結構な数住んでいるのによく問題もなく経営しているなと思ってしまう、その建物は────ラブホテル、俗に言う大人のホテルだ。


 このホテルはオレが生まれた時には既にあって、物心がつくとよく親に「この建物なに?」と聞いて困らせた記憶がある。


 子どもが興味を抱いてしまうような、まるでテーマパークのような門で迎えているのだから、気になってしまうのも無理はない。


 だから、その好奇心で中に入ってしまう子どもがいても不思議は無いと思うんだけど、そんな話を聞いた事が無いし、今も尚通常営業をしているのはそういう事なのだろう。


 なんとなく、懐かしさを覚えるその門を見ていると、丁度そのタイミングで1組の男女が出て来た。


 瞬間、崖から突き落とされたような、そんな衝撃を身体が襲った。


 自分の恋人が、知らない男とホテルから出てこれば、きっと、殆どの男性が同じ衝撃を味わう事になるだろう。





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