裏切られた俺は再び歩き出す

第1章 心の迷宮

プロローグ

 ベッドの上に仰向けで倒れている私の頭上にはデジタル時計が置かれていて、その画面には『01:05』と表示されている。午後ではなく、午前────即ち深夜の1時ということ。

 

 この時間、窓を開けている為に吹き込んでくる秋の夜風は冷たく、蒸したように感じていた部屋はすぐに室温が下がる。


 とは言え、換気が目的な為寒いからといって窓を閉める訳にはいかない。


 しかし室温もだけど体温も下がり続ける。下限が無いわけじゃないが、汗で濡れた服を着ている事もあって、このままは風邪を引く可能性も十分ある。


 仕方が無く重たい腰を上げて、ベッドから降りると、窓に反射して映る自分の姿が視界に入る。


「酷い顔」


 すぐに目を逸らし、クローゼットから着替えを取り出す。

 そのまま静かに部屋を出て、静かに階段を降り、静かに脱衣所へと入った。誰も起こさないよう、特に親を起こさないように────……静かに。


 洗面台にある鏡に自分の顔が映り、直ぐに先程と同じように視線を逸らした。けど、それでも、その一瞬でも、頬を伝う一筋の涙に私は気付いた。

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