第21歩 『疑問』
紗代の木下先輩への告白の一部始終を見終えた俺は確信と、疑問を抱いた。
「信じたくないけど、これを見ただけだと紗代は自らの意思で浮気をしていたことが明らかになった。でも、なんで雪はこの動画を隠してたんだ?」
この動画があれば美喜多さんが紗代に聞いた話が嘘だと分かり、木下先輩に復讐をするなんて考えなかっただろう。
「どっちの方が良いか決めかねてたんだ」
「どっちって?」
「お兄ちゃんが紗代さんにだけ復讐するのと、木下 陣を懲らしめて結果的に紗代さんと別れさせるの、どっちがいいかなって」
この動画を見るに紗代は木下先輩のことを心から好いているのだろう。そんな相手が性犯罪者で、それを暴露したのが俺となれば紗代のイラつく姿が想像できてしまう。
「なら、これを録画した日に俺に見せなかったのは?」
「......見せれない理由があったから。本当はそれも撮影出来てたら良かったんだけどね」
そう言って俯いてしまう雪。彼女が紗代への復讐を促していたのは、先ほどの動画が原因。しかし大事な部分は抜け落ちているみたいで、なぜ紗代がそんなことをしたのかが分からない。
「雪は紗代と話をしなあったのか?」
「......したよ。だからお兄ちゃんに見せれなかった」
「脅されたってことか?」
「うん。それと紗代さんの目的も聞いてけど......これは教えられない」
「な、なんで?」
「美喜多さんにした話と違うから、本当かどうかも分からない。証拠も残っている訳じゃないから、これ以上お兄ちゃんに余計な情報を与えたくないの」
こうなれば、雪は意地でも教えてくれないだろう。でも先ほどの口ぶりだと確定している情報は教えてくれると捉えることが出来るので、そこまで悲観することではない。
「雪ちゃんはこの動画どうやって手に入れたの?」
「昼休みに図書室に行ってお兄ちゃんにちょっかい出そうかなって歩いてたら、2人が空き教室に入っていくのを見たから、気になってね」
雪には紗代と付き合ってることを話してたから、木下先輩と2人で空き教室に入っていったら、用心深い彼女は証拠を残そうとするだろう。
それこそ、俺が紗代に告白された日のように。
「雪と結婚した旦那は絶対浮気とかできないな」
俺の言葉に美野里さんも頷いている。
「そんなことはどうでもいいとして、お兄ちゃんの今の気持ち教えて?」
「紗代の行動が脅されての結果ではなく、自分の意思でという可能性がぐんと上がった」
「うん」
「そうなると、俺は紗代と話を付けないといけない。なんでこんなことをしたのか聞きたい自分がいる。......でも、美野里さんのことも助けてあげたい」
俺は雪の目をしっかりと見つめて手を差し出す。
「俺一人じゃどっちか......いや、どちらも失敗に終わる。だから協力してくれ」
雪は一度小さい溜息を吐くと、俺の差し出した手と握手をした。
「まったく、紗代さんへの復讐に関しては協力するって言ったでしょ?」
「......そうだったな」
顔を上げて2人で笑い合う。
「いいですね、仲良さそうで」
美野里さんが笑いながら、でもどこか寂しそうな目をしていた。
「美野里ちゃん......この際だからハッキリさせようか」
「え?」
「美野里ちゃんはさ、なんでクラスの子たちに助けを求めたの?」
「それは、だって、私の悩みを相談したくて......1人で抱えてるのが辛くて」
「でもそれ、結果的には美野里ちゃんが助かろうとしている行動だよね?」
「.......ち、違う」
「クラスの子たちが美野里ちゃんの話を信じてくれたとしたら、多分助けようとしたはずだよ?美野里ちゃんはそれを断るの?」
「そうだよ、だって...」
「じゃあ、どうして私が木下先輩を懲らしめたいから協力してって頼んだ時、協力を拒んでも私のことを止めなかったの?」
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