第11歩 『まとまらない』
想定していたよりも多くの収穫が有ったイベントが終わり、雪が自室へと戻って行った後、部屋の電気を切りベッドに仰向けで寝転がった。
収穫として新情報を得られたが、その代わり疑問もいくつか浮上した。
紗代の、とても賢いとは思えない立ち回りがどうしても気になった。
オレと付き合っていた時のように周囲に隠さず、寧ろ見せ付けるように一緒に登校して来たのがどうにも腑に落ちない。
それにオレが何もしない事を確信してる割には、必要性の無い──オレを陥れるような事をしたのか。
意味があるんじゃないか、そうしなければいけない理由があるんじゃないか───雪が部屋を出て行ってからずっと思考を巡らせているが答えが出ない。
『逃げるなよ』
雪の言葉が脳裏を過る。響き渡る。
逃げるな、か。オレはまた自分の都合の良いように物事を捉え、事実を作り出そうとしてしまっている。
紗代の本心は分からないし、真実は知らないけど、今ある事実だけを纏めると紗代がオレを騙し、他の男とホテルから出てきて、オレに関する虚言を吐いて回っている。それが今ある情報。
だから、それだけしか分からないから、知らないから目を逸らす余地が出てしまっている。可能性は低くてもその事実を望んでしまっている。
※
「紗代さん、今日から教室で居辛くなるんだろうなぁ」
朝食を食べながら、台所に立つ母さんに聞こえないよう小声で雪が言った。
「でも、盲目的なファンは変わらないんじゃないか?それに女子は昨日の件が無くても元から距離置かれてただろ」
「そうだけど、今までとは違う。嫉妬が原因で、だから直接危害を加えたり避けたりは無かった。でも、昨晩の件で平気で他人に嘘をついて利用する、彼氏が居るのに他の男と付き合う───ま、自業自得だけどね」
自業自得という言葉は事実を述べただけなんだろうけど、オレには、罪悪感を感じ始めた兄をフォローする優しい言葉に聞こえた。
※
登校中に考える。考えてしまう。
オレの行動は正しかったのか、間違ってないか。
疑ってしまうのはオレの所為で紗代が傷付く事が嫌だから、そうじゃない、誰が原因でも紗代が傷付き悲しむ事が嫌なんだ。
結局、一晩考えて導き出した答えはそれだった。オレがどうしようもなく、まだ紗代のことが好きだと言う事。
既に教室に着いて席に座り、思わず溜息を吐いたオレを心配して冴島が話し掛けてきた。
「なんかお前顔色悪いぞ、どうした?」
「別に、寝不足なだけ。それよりもあいつの心配をしてやったらどうだ?」
俺が視線を紗代の方に向けると、冴島もそちらに視線を向ける。
するとそこには、紗代の一人の空間があった。
「女子は昨日の情報の所為で距離を置き、男子は紗代が彼氏持ちなことを知って距離を置いた。しかもその相手が、イケメンで知られるバスケ部の部長の
女子人気高いんだよなぁ、と呟く冴島。俺はというと、胸が締め付けられるような感覚を味わっていた。嫉妬?後悔?怒り?罪悪感?違う。
「なんで、そのこともっと早く言わないんだよ!」
「え?なにが?てか急に大声出すなよ!」
冴島が紗代の方に視線を向けるが紗代はこちらを特に気にもせず、変わらない様子で本を読んでいた。
「彼氏の名前だよ!」
「いや、お前も顔見ただろ。あんな有名人知ってるに決まってると思うじゃん」
確かに顔は見た。
でも、俺は顔と名前が一致しなかった、知らなかったんだ。例え学校では有名でも俺とは関りのない先輩。紗代の時同様、名前だけを言っていた存在なんだ。
「冴島」
「今度はどうした?」
俺は冴島に耳を近づけるように促し、周りに聞こえないように小さい声で囁く。
「俺、分かったよ自分がしなきゃいけないこと」
「え?お、おう?」
俺の覚悟が決まった瞬間だった。
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