第11歩 『まとまらない』
想定よりも多くの収穫があった話し合いが終わり、雪が自室へと戻って行った。部屋の電位を切り、ベッドに仰向けで寝転がった。
今日の話し合いで初めて知った情報もあったが、疑問もいくつか浮上した。紗代の賢いとは思えない立ち回りがどうしても気になったんだ。
俺と付き合っていた時のように周囲に隠せばいいものを、なぜか先輩といちゃついているところをみんなに見せつけていたのはなぜか。
俺が何もしてこないって思ってくるくせに、俺を陥れるようなことをしたのはなぜなのか。
もしかしたら何か意味があるんじゃないか、そうしなければいけなかった理由があるんじゃないか───そんなことばかり考えてしまう。
『逃げるなよ』
雪の言葉が脳内に響き渡る。俺はまたこうして自分の都合のいいように物事を変換して考えてしまっている。自分の目で見たじゃないか、紗代とあの男がホテルから出てきたところとその後のキスを。
紗代が俺を弄んで、他の男とホテルから出てきて、俺に関する虚言を吐いている。
それが俺の中での事実なんだ。それ以外の考えや可能性なんて、ただの願望なんだ。
───そんなことは分かってるんだけどなぁ。
紗代のことを信じてしまう自分がいるのも事実だった。
「紗代さん、今日から教室で居辛くなるんだろうなぁ」
朝食を食べながら雪がそんなことを言う。彼女は今日は朝練で普段一緒に朝食を摂ることなんてほとんどない。
昨日の夜色々考えすぎて中々寝付けずにいて、気晴らしにアニメでも見ていたら気が付いたら朝になっていたのだ。
「男子はともかく女子たちは距離を置くだろうな。でも、元からそんな感じだったと思うけど」
「今までは嫉妬が殆どで明確な敵意じゃなかった。でも、昨日の夜紗代さんが平気で嘘を言いふらして人を傷つける奴だって分かったんだ。今までとはわけが違うよ」
「それに、あの会話グループにいなかったやつに話が流れている可能性もあるからな」
「そうだね───っと、そろそろ私は学校に行ってくるよ」
「あぁ、気を付けてな」
「うん、お兄ちゃんもね」
雪がリビングから出て行くと、入れ替わりで母親がトイレから戻って来た。雪はそのことに気づいてリビングを出て行ったのかもしれない。
両親にはこんな話聞かせられないからな。
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登校しながら考えてしまう───俺の行動は間違いだったのだろうか、と。
俺の所為で紗代が傷付く、紗代に悲しい思いをさせてしまう。それがたまらなく嫌だったんだ。
───一晩考えて、導き出した答えは、俺がどうしようもないくらいまだ紗代のことが好きだということ。
この気持ちがなくならない限り、以前雪が言っていた紗代のことを懲らしめるなんて出来ない。
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教室に辿り着くと、冴島が心配そうに俺に話しかけてきた。
「なんかお前顔色悪いぞ、どうした?」
「別に、寝不足なだけ。それよりもあいつの心配をしてやったらどうだ?」
俺が視線を紗代の方に向けると、冴島もそちらに視線を向ける。
するとそこには、紗代の一人の空間があった。
「女子は昨日の情報の所為で距離を置き、男子は紗代が彼氏持ちなことを知って距離を置いた。しかもその相手が、イケメンで知られるバスケ部の部長の
女子人気高いんだよなぁ、と呟く冴島。俺はというと、胸が締め付けられるような感覚を味わっていた。嫉妬?後悔?怒り?罪悪感?違う。
「なんで、そのこともっと早く言わないんだよ!」
「え?なにが?てか急に大声出すなよ!」
冴島が紗代の方に視線を向けるが紗代はこちらを特に気にもせず、変わらない様子で本を読んでいた。
「彼氏の名前だよ!」
「いや、お前も顔見ただろ。あんな有名人知ってるに決まってると思うじゃん」
確かに顔は見た。
でも、俺は顔と名前が一致しなかった、知らなかったんだ。例え学校では有名でも俺とは関りのない先輩。紗代の時同様、名前だけを言っていた存在なんだ。
「冴島」
「今度はどうした?」
俺は冴島に耳を近づけるように促し、周りに聞こえないように小さい声で囁く。
「俺、分かったよ自分がしなきゃいけないこと」
「え?お、おう?」
俺の覚悟が決まった瞬間だった。
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