紗代エンド

 紗代の告白から、少しの間、静寂が流れる、俺がすぐに返事をしないから。

 困っている訳じゃない、だから、驚いているんだ。

 困っていない自分に、気持ちが変わっていない自分に。

 返事をせずに固まる俺を前に、不安になったのか、表情を暗くする紗代────……変わらない。俺の気持ちは変わっていない、紗代のこんな表情を、俺は見たくない。


「好きだ」

「え?」

「前から、付き合い始めたあの時から、俺の気持ちは変わってない────……俺は、紗代のことが好きだ、大好きだ!」

「───っ!」

 

 俺からの告白に、紗代が驚き、固まる。

 

「俺には出来なかったんだよ。あんなことがあって、雪に言われたけど、紗代の事を諦めることも、嫌うことも……それでも、出来なかったんだ」


 他のカップルよりも、付き合っている期間を考えれば少ない思い出しかないけど、でも、あんなことがあっても紗代の事を簡単に嫌いになれないくらい、俺にとっては大切な思い出を、紗代と作っていたんだ。

 簡単に手放すことが出来ない、思い出が……。


「嘘……嘘だよ、紅貴くん、優しいから、私を傷つけないように……」

 

 そう言う紗代の目からは、涙が溢れてきている。


「俺の言葉が信じられないなら、信じてもらえるまで伝えるよ」

 

 紗代を抱きしめる。

 

「俺は、紗代の事を嫌いになったことなんてない。ずっと、ずっと好きなんだ」

「……どうして、どうしてなの?どうして紅貴くんは、そんなにも優しいの?」

「優しくなんてない、だから、優しいから紗代のことを好きってわけじゃない……ただ好きなんだよ」

「そんなの、変だよ」

「美喜多さんにもよく言われたな、変な人って」


 紗代は、相変わらず涙を流しているけれど、だけど、笑っていた。

 俺が大好きな、俺が惚れた紗代の笑顔が、そこにはあった。

 誰かの機嫌を取る為に、人気になる為に作られた、そんな、偽りの笑顔じゃなくて、紗代の、心からの笑顔が、本物の笑顔が、俺は好きなんだ。


「もう、全部終わった……だから、俺にとってはもう、終わったことなんだよ。紗代が何をした、なんてもう、どうでもいい。さっきの告白が嘘じゃなかったら、それでいいんだ」

「嘘じゃないよ、だから────」

「っ!」


 突然、背伸びをした紗代にキスをされた。


「ありがとう!」

「……あの、俺、ファーストキスだったんだけど」

「知ってるよ!」


 楽しそうに、幸せそうに笑う紗代。

 ファーストキスは、もっとロマンティックかものを思い描いていたけれど、これはこれで良いものかもしれない……大好きな紗代の笑顔を見ながら、キスの余韻に浸る、この感じが。


「ったく」

「あ、そうだ!……それと、えっとね、報告というか、信じて貰えないかもだけど」

 

 手を後ろで組み、もじもじとし始める紗代。

 どうしたのだろうか。


「私は、その、ファーストキスを、紅貴くんに上げれなかったんだけど……けど……違う、初めてならあげられるよ」

「え?」

「あの時、ホテルから出て来たのを、紅貴くんに見つかった日……あの日が初めての日の予定だったの……」

「……予定?」

「突然、生理が来たの……だから、シテないの」


 その言葉が本当かどうかは、もちろん分からないけど、でも、やっぱり俺は紗代のことを疑う気にはなれなかった。それは、今までも、これからも。 


            *


 以後、蛇足の蛇足


「ぱぱ……まま……やっとあえるね」

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