第32歩 『毒舌な図書委員 前を向く』

 話す内容的に廊下で立ち話で、という訳にもいかないので、図書室を訪れ、いつものように当番を代わってもらう。

 当然、誤解を生まないよう、タイミングをずらして入室した。


「改めまして、峰山くん、お疲れさまでした」

「ありがとう、って実は俺は何もしてないんだけどな。どっちかというと、あいつから解放された、肩の荷が下りた美喜多さんに────お疲れ様って言葉を送るよ」

「ありがとう、ございます」


 相変わらず図書室には他の生徒は1人もいなくて、だからこそ、こんな話を気にせずする事が出来る。


「あなたや雪さん、美野里さん────皆さんのおかげで救われました。感謝してもしきれないですよ、本当に」

「俺は何にもしてないって」

「いいえ、あなたがいなければ、美野里さんは勇気を出さず、そして、吉田さんや冴島さんも協力してくれなかったかもしれません。いいえ、確実に、木下陣は野放しの状態が続いていたでしょう」

「そんな事ないと思うけどな」

「いいえ、私は確信していますよ」


 いつ振りだろうか……もしかしたら初めてかもしれない。

 こんなにも、柔らかい、彼女の笑顔を見たのは。


「ところで、なんの相談も無しに計画を変更したのは感心しませんね。どうして、冴島くんだけしか桐谷さんの話を聞いていなかったのでしょうか」

「聞いてたのか?」

「ええ、まあ。突然ビデオ通話にされた時は焦りましたよ」

「悪かったよ」

「いいえ、あなたに非はありません。元々あの計画はお2人に一任していましたので、私が聞いている事もまた、計画とは違ったものですから。ですが、あなたの甘さには驚かされましたよ。どうするんですか、これでまた明日から桐谷さんが変わらない態度で、あなたの有る事無い事言い降らしたら」

「ああ、それは考えて無かったな」

「まったく、人の事信じ過ぎですよ。……安心してください、会話は私が録音しておきましたので、あなたに送っておきますよ」

「ありがとうございます」

「これでチャラって事でいいですね?」


 わざとか偶然かは分からないけど、俺がさっき紗代に言ったのと、ニュアンスは違うが同じことを言っているぞ。

 あ、悪い顔してるから、わざとだな。


「ふふっ、冗談ですよ。さすがに釣り合いませんから」

「いや、俺はそれでも────あ、そうだな、じゃあ、対価を求めようか」

「対価?」

「ああ、不足分の対価とし────」

「まさか私の身体で払えとでも!?」

「そんな訳無いだろ!この流れでそれ頼んだらそうとうクズじゃん俺!」


 木下陣の話題の後にそれは、本当に笑えない。


「そうじゃなくて、敬語を止めて欲しいってだけなんだ」

「え」

「折角の、お互いに数少ない友達なんだからさ、敬語だと距離感じるだろ?だから」

「私、今、口説かれてます?それとも馬鹿にされてます?」

「どっちも違うから!」


 美喜多さんは溜息をくとカバンを持って立ち上がった。


「このままここに居るとなにされるか分からないので逃げておくことにします」

「さっきまで俺に感謝してたよね?なんで急に毒吐かれてるの?」


 俺の言葉を無視して扉の方へ向かっていく美喜多さん、そのまま出て行くかと思われたがこちらを振り返ると指を開いた手を肩まで上げた。


「じゃ、じゃあ……また、明日……」

「っ?!……うん、また明日」


 美喜多さんが図書室を出て行くと思わず顔がにやけてしまう。自分でお願いしておいてなんだが恥ずかしいものがあった半面嬉しくもあった。

 これは残りの時間、胸の高鳴りを抑えるのが大変だぞ。


「その様子だと、美喜多さんに告白でもされたのかい?」


 続々と尋ねて来てくれるのはボッチ歴の長い俺にとっては嬉しくはあるけど、だけど、今だけは少し1人の時間が欲しかったんだけど、図書室のもう1人の常連がそれを許さなかった。


「されてないから!」

「そうなのかい?頬を赤らめた美喜多さんが出てきて、キミも顔が赤いから、私はてっきり」

「誤解!誤解だから!」

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