第19歩 『妹の友達』

 申し訳なさそうな表情を浮かべた美野里さんが立っていた。


「どうした?雪にいじめられたか?」

「ち、違います!雪ちゃんはそんな事しません!……それに、もう寝ちゃってますから」

 

 雪は寝つきが良いからな。

 会って間もない妹の友達を部屋に招くなんてなんだかいけないことをしている気分になるが......ここで話すわけにもいかないし、仕方ない。

 

「どうぞ」

「し、失礼します」


 少し緊張した面持ちで俺の部屋に入り、そのまま床に座ろうとしたので、勉強机の椅子に座るように促した。ベッドに座ってもらってもよかったのだが、いよいよまずい光景になりそうなので却下した。


 彼女は遠慮してきたが「美野里さんが床に座ったら、俺も床に座る」と言ったら諦めて俺の促した椅子に座った。俺は別に床に座ることは苦痛ではないが、お客さんをクッションもない床に座らせるのは申し訳ない気持ちになったので、少々彼女の性格を利用させてもらった。


 彼女は自分の所為で他人が傷付いたり苦痛を感じたりするのを嫌うと思ったのだ。


「まずは、美野里さんが本名でいいんだよね?苗字も木下で」

「えぇ。雪ちゃんの指示で偽名を使うことにしたんです」

「もしかして俺の所為だったりする?」

「それ以外にありませんよ」


 雪は俺と美野里さんがもうすでに会っていることを知らないみたいだ。

 

 これに関しては河川敷であった名前も名乗らなかった男が友達のお兄さんだった、という予想外の事態故だろう。

 それにしても、先ほどの良い方的に彼女は知っているのだろうか。


「雪から俺が浮気されたこと聞いたんだね」

「はい──」


 やはり、今日河川敷で会っていたころにはもうそれを知っていたんだ。雪がなぜそんなことを美野里ちゃんに話したかは分からないが......きっと必要なことだったんだろう。


「──そもそも雪ちゃんが私に声をかけたのはお兄さんがきっかけだったんです」

「えっ、そうなの?」


 驚きはしたが冷静に考えれば辻褄の合う話だ。雪は紗代の行動の真意を知るために美野里さんに近づいた。しかし、警戒心の強い美野里さんは容易に自分を信じないので、自分が木下先輩を恨んでいることを伝えたかったんだ。


「なーんだ。二人とも知り合いだったんだ」





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