第12話 たぬき伯爵、隣国のお姫様に会う?

「カール。アベール侯爵からのお手紙には何て書いてあったの? 落ち着いて話してみなさい。」


義母ははが僕の顔を見ながら問い掛けた。


「はい…、これには…」


要約すると、手紙には以下のような事が書かれていた。


カール・ジーメンス殿

隣国・商業国家オルロヴァの使節団が、陸路で我が国に入国される。

定例の2年に1回の使節団の来訪であり例年は海路で訪問していたのだが、交易船が故障で使用できず、今年は陸路で移動となった。

陸路の場合、ジーメンス伯爵領を通過して街道に至ることになる。

我が国の玄関口として、よろしく頼む。


「だそうで…。フリーデル、この隣国の商業国家オルロヴァと言うのはどういう国なの?」


「商業国家オルロヴァはその名の通り、商人の国です。国土は狭いのですが良港に恵まれ、様々な国との交易が行われています。オルロヴァはナイザール王国に取っても重要な国で、我が国はマルゴワールと言う港はありますがこちらは小規模な為、オルロヴァが我が国にとっての海の玄関口と言えます。」


「…他の国なのに、ナイザール王国の海の玄関口なの?」


「はい。オルロヴァは軍隊を持たないので、国の守りはナイザール王国に依存しています。外交権は持っているのですがその行使を留保しているので、実質的に我が国の保護国とも言えます。その為2年に1回使節団の来訪が行われているのです。」


なるほど。

このオルロヴァと言う国は独立国家ではあるがナイザール王国に臣下の礼を取っていると言う事か。


「ところでカール様。その手紙には使節団は誰が来るのか、いつ頃になるのかの記載はあるのですか?」


「ちょっと待ってね、えーと。」


僕は手紙を読み進めた。

使節団構成…んーっと、これは…

アイナ・オールブリンク…


「カール様、その方はオルロヴァ太守の令嬢です。オルロヴァは国の性格上国家元首を国王と呼称しませんが、実質的には王族ですね。そのアイナ様は、私も面識がありませんが、オルロヴァ太守の末子だったかと思います。」


「え、ええ!? つまりお姫様がここに来るって事…? あ、しかも日にちは…。え、明日!?」


手紙には到着予定として明日の日付が記されていた。

アベール侯爵、前日に手紙を送ってくるなんて!


「ど、どうしよう!? 王族が来るって、いったいどんな準備をすればいいのかな?」


「今日の明日では準備出来る事に限りはありますが、それは私がハンスやメアリー等と取り掛かりましょう。カール様はジーメンス伯爵家当主としてお出迎えをお願い致します。」


「そうよ、どーんと構えてしっかりしなさい。」


いきなり他国の王族の相手なんて、なんて無茶な…!

僕は頭を抱えた。



―――



そして翌日、僕の屋敷の前に豪華な馬車が到着していた。

フリーデルが言っていたようにオルロヴァには軍隊が無い為、警護の兵士は見慣れたナイザール王国の装備に身を包んでいた。


馬車から桃色のワンピース姿の少女が降りてきた。

少女の年齢は僕と同じくらいだろうか、身長は僕より少し大きいみたいだ。


「こ、これは商業国家オルロヴァの皆様、遠路はるばるようこそいらっしゃいました。私はナイザール国王ベルクール三世が家臣、カール・ジーメンスにございます。」


僕は緊張しながらも、フリーデルと練習した挨拶をした。


「お出迎え、恐れ入ります。私はオルロヴァ太守エドワードの娘、アイナと申します。…後ろにおりますのは使節団長のディオンですわ。」


アイナがにこっとしながら一礼した。

可愛らしい笑顔だ。

それに続き、使節団長のディオンが頭を下げた。


「ジーメンス伯爵殿、本日は急な訪問にも関わらず対応していただきありがとうございました。ご迷惑でなければ、3日程逗留させていただきたく考えております。」


「ディオン殿、それにつきましては私の方で段取りをさせていただいております。姫様および使節団の皆様は当家の屋敷にて、警護の兵は我が国の者になりますから領民から借り受けた家屋に泊ってもらう事にしています。」


僕に代わりフリーデルが答えた。


「これは…フリーデル殿下。王都より下向されたと言うのは本当でしたか。」


「は…。今はカール様にお仕えしております。」


僕はフリーデルと使節団のやりとりをぼんやりしながら眺めた。

3日間、無事に済めばいいけど…


何気なくアイナの方を見ると、偶然にも目が合った。

アイナ姫はまたしても僕ににこっと笑顔を見せた。


僕の顔、赤くなっていないかな…?


















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