第34話 翌日、馬車の中で
翌日の朝、僕は目を覚ました。
「ん~、体が痛い…」
僕は思いっきり伸びをした。
体の節々が痛い。テントの隅の方で蹲って寝ていたためだ。
僕の本来の寝床の方を見ると、ラリサがすやすやと寝息を立てていた。
ラリサは昨日、あのまま泣き疲れて寝てしまったのだ。
僕はそーっとテントを出た。
まだ辺りは日が昇ってきたばかりで薄暗い時間だった。
「あ、おはようございます。カール様。」
見張り役を務めていたアメリアが声を掛けてきた。
同じく見張りを務めていた筈の斧戦士のヴィクトルは周囲の見回りに出ているようだ。
「おはよう、アメリア。見張りご苦労様。」
僕は笑いながら挨拶をした。
「ところでカール様…」
アメリアが自らのローブの袖口を掴んだまま、その手で口を隠した。
「何だい?」
「昨日はお楽しみだったんですか?」
アメリアがニヤっと笑った。
「え、お、お楽しみ…? 何を言ってるの?」
「昨日ラリサちゃんと夜一緒だったんでしょう?」
「ち、違っ! いや、そうだけど、変な事なんかしてないよ!?」
僕は慌てて手をブンブン振りながら答えた。
「そうなんですかぁ? アイナ様には黙っていてあげても良いんですよ?」
「確かにおしゃべりはしてたけど、違うんだってば!」
その様なやり取りをしていると、後ろのテントのほうでガバっとシートを開ける音が聞こえた。
「カカカ、カール様!」
髪の毛が乱れたままのアイナが駆け寄ってきた。
「き、昨日は、ごめんなさい。カール様の、ねどこ、取っちゃって。」
「あれれ~? やっぱりお楽しみだったんじゃないですかぁ?」
アメリアのニヤニヤ顔が止まらない。
「違うんだってば~~!」
僕はブンブンと首を振りながら必死に否定した。
ラリサは僕の隣でオロオロとしていた。昨日から随分変わったな、この子は…
―――
朝食後、僕達は素早くテントを片付け二台の馬車で再び出発した。
ちなみに夜通し見張りをしていた冒険者チームの二人は馬車の中で休息を取っているはずだ。
「・・・」
「・・・」
僕はチラッと対面に座っているラリサを見た。
昨夜や先程の様に取り乱してはいないが、どこかよそよそしいと言うか視線を逸らされているような気がする。
「えーっと、カール様。ラリサと何かありましたか?」
フリーデルはその雰囲気に感づいた様だ。
「あ、うーんと、昨日はちょっと二人で話をしただけだよ。」
「そうですか…」
「う・・・ん、きのう、わたしのことを、話した。」
ラリサが俯きながら口を開いた。
「なるほど、なるほど。」
フリーデルが頷いた。
「それで、それを聞いたカール様はどう思いましたか?」
「別に…、どうもしないよ。僕は僕だし、ラリサはラリサだもの…」
僕はきゅっとこぶしを握り締めた。
「でもフリーデルは、ラリサの過去の事は知っていたの?」
「私は今回雇い入れた
「・・・」
「その調査の過程で、ラリサが
「いや、それは大丈夫だよ。」
僕は首を振った。きっとフリーデルの心遣いもあったのだろう。
「ありがとうございます。ラリサの過去はまあそんなこともありましたが、それはこの者のすべてを決めつけるものではあってはいけません。辛い過去も乗り換えられるかは、本人の意思と周りの環境です。」
その通りだ。昨日の話を聞いて、少なからずショックを受けたのは間違いない。
でも僕はラリサには幸せになってほしい。
「まぁその辺について、私は自らの主を信頼していますからね。期待していますよ、カール様。」
「えあ、うん。頑張るよ…?」
僕は戸惑いながらも頷いた。
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