第35話 遭遇・ハルピュイア

僕達は森の中を進んだ。

昨夜一晩を明かした遺跡からしばらくは道の跡のようなものがあったのだが、だんだんそれも細くなりこれ以上馬車で先に進むのは厳しそうだ。


「ふむ、ここまでですな。これ以上は森が深くなるので馬車では進めなさそうです。」


フリーデルが馬車の前でこの先の森の様子を見ながら言った。


「そうだね。この後はどうするの?」


「ここからは歩きで進みます。カール様にも歩いていただくことになりますが、どうしますか?」


「僕も行くよ。がんばる!」


「分かりました。…馬車はここに置いていかなければなりませんから、馬車の警護に2名残します。ビリーとトリスタンはここに残って馬車を警護してくれ。」


フリーデルが冒険者チームのうち二人に指示を出した。


「荷物は食料と水をメインに、最小限を分担して持つことにする。ボリス、君はすまないが少し多めに荷物を頼む。」


フリーデルの的確な指示が飛んでいく。


「フリーデル、僕も荷物を持つよ!」


僕は両こぶしを握り締めながら言った。


「カール様、それはだめ。分かって?」


ラリサが僕の服の肘のあたりを引っ張った。


「え、えっと…」


ラリサの目を見て、僕は察した。

ここから先は何があるか分からない。

しかし僕は戦う力がほとんどないから、戦闘ではお荷物になりかねない。

ラリサの役目は僕達が戦闘に巻き込まれた場合、いざと言うときに僕を抱えてでも逃がさないといけないから、僕を身軽にしておきたいのだ。


「本当は僕が馬車に残った方がやりやすい?」


「いや、それはどうだろう? 馬車に残ったら残ったで、わたしも残らないといけないから、あまり変わらない?」


ああ、そうか。

ラリサは広範囲の気配を探ることのできる能力スキルがあるから、前に進む組に入っていた方がやりやすいかもしれない。


さて僕達は準備が整ったところで森の中に入った。

先頭は盾役タンクのヴィクトルだ。

現在の一行における前衛はヴィクトルとフリーデルになる。

フリーデルは長剣の使い手でもあるらしい。


「ラリサ、君は索敵で何かを感じたらすぐに教えてくれ。あいまいな気配で構わない。」


「うん、分かった。」


僕達はこの隊列で森の中をさらに進んだ。

途中魔獣モンスターに遭遇するようなこともあったが、ヴィクトル達が難なく退けていった。

2時間ほど進んだ頃だろうか。


「前、何かいる。魔獣モンスターじゃない。」


「数は分かるか?」


フリーデルがラリサに尋ねた。


「正確には分からない、けど、3~4体、かな。空を飛んでる。」


魔獣モンスターじゃない、空を飛ぶモノ。

それは一体何だろう?


「よし、警戒態勢だ。アメリア、詠唱の準備を。」


「分かりました。魔法の数は?」


「そうだな、2発すぐに撃てればありがたい。」


「詠唱固定しておきます。」


詠唱固定と言うのは魔導士の中~高等能力スキルだ。

通常魔法と言うのは魔法の詠唱を完成させて初めて撃ち出すことが出来るものだ。

魔導士は事前に詠唱を行っておきそれを自らの魔道具へ固定させることが出来れば、迅速に魔法を打ち出すことが出来る。

…ちなみにこれよりも更に高等な魔法能力スキルが無詠唱魔法である。


「ボリスは戦いになったら荷物を一回置いて構わないから、戦いに参加してくれ。ラリサは変わらずカール様の護衛を。」


戦いの準備を整え、僕達は更に前に進んだ。

そしてそのまま少し進んだところで、それが僕達の前に現れた。


「ハルピュイア…?」


目の前に現れたのは4体の有翼人、ハルピュイアだった。


「お前達、ここに何しに来た? ここからはワタシ達のナワバリだ。」


その内の一体、赤毛のハルピュイアが少し威嚇気味に話しかけてきた。


「言葉が通じるのか、ありがたい。」


フリーデルが武器を自分の足元に置いた。


「私達はあなた方の縄張りを侵そうと言うつもりはない。もしあなた方の長がいたら話し合いたいんだ。」


「オマエが、お前達の長か?」

「お前達、ニンゲンだけじゃなく魔族や獣人もいるのか?」

「何しに来たんだ?」


ハルピュイア達が口々に言葉を発した。


「いや、私達の長はここにおられる獣人のカール様だ。…カール様。」


「う、うん!」


僕はフリーデルの横に並んだ。

僕が安全でいられるのは、このラインが限界だろう。


「オマエが!?」


最初に話しかけてきたハルピュイアが少し目を見開いた。

他の三体も信じられないと言うような表情だ。


「僕がこの一行を率いるカール・ジーメンスと言います。このフリーデルが言ったように、あなた方の長がいればお会いしたい。」


「何を言う! ワタシたちの長が会うはずが…」


一体のハルピュイアがそこまで言ったところで、赤いハルピュイアがそれを制した。


「イイダロウ、ついてこい。」


「あ、ありがとう…!」


僕はにこっと笑いながら一礼した。

(内心は冷や汗ものなのだが)


僕達はハルピュイアの後についてその先へを歩を進めた。








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