第47話 参勤~王都へ

秋、僕は王都バイゼルにいた。

ナイザール王国の貴族は1年に1度、1か月間王都に滞在しなければいけない決まりになっている。参勤と言う制度だ。もっともアベール侯爵の様な派閥の重鎮や王国中央の要職にある貴族は王都に滞在し、自領は代官に任せている者も多い。

僕のような地方領主は通常こういう時しか王都に来ないものも多い。

(僕は義父上ちちうえが亡くなった時と、アイナとの婚約の裁可を得るために来ているのだが。)


「おお、カールよ。よく来たな。」


アベールが満面の笑みで僕を出迎えてくれた。

王都に屋敷を持たない僕は前回に引き続き、アベールの屋敷に世話になることになっていた。


「侯爵様、お久しぶりです。8カ月ぶりくらいでしょうか。」


僕は笑顔を返しながら握手の為の右手を差し出した。

アベールは僕の手を両手で握ると、ぶんぶんと振りだした。


「まったくなかなか顔を出さんのだから…。儂も退屈してしまったわい。」


「は、ははは。すみません…」


まったくこの人は…。獣人嫌いの人族至上主義者じゃなかったのか。

僕は頭に手を当てた。


「何か、アベールのおじさまってカール君の親戚のおじさんみたいですね。」


アイナが笑いながら言った。

ちょーっ! 親戚のおじさんって…!


「ははは、親戚のおじさんか。それは愉快だ。さ、立ち話もなんだから、中に入りなさい。」


「はい、ありがとうございます。」


僕達は一礼した。


「ジーメンス卿、お荷物は私どもは客間にお運びします。皆様はダイニングへお越しください。お夕食の準備が整っております。」


アベール侯爵家の使用人が僕の荷物を預かってくれたので、僕はアベールの後に続いてダイニングへ向かった。


「うわぁ…」


僕の横でアイナが感嘆の声を漏らした。

ダイニングにはビュッフェスタイルの食事が用意されていた。


「儂は堅苦しいのはあまり好きじゃないのでな。お前達もその方が気楽で良いだろう。」


とは言うものの、用意されている食事はジーメンス家でのそれと違い実に豪華だ。


「そう言えば今日はフリーデル殿はおらんのか?」


「はい。王都まで一緒に来たのですがいろいろと情報収集も兼ねて、別行動をしております。」


「そうか、フリーデル殿も働き者だのう。うーむ、酒の相手がおらんでは無いか。…む?」


アベールが僕の後ろの方へ視線を向けた。僕の後ろにいるのはラリサだ。


「そこの魔族の娘…、ラリサと言ったか? そこで何をしている?」


「え、えっと、わたしは…」


ラリサは言葉を濁した。


「早くこっちに来てご飯を食べなさい。腹を空かせているのだろう?」


「え、でも…。わたし、奴隷だから。」


「そんなことはどうでもよろしい。ほれ、カールよ。早くお前も自分の従者にちゃんと言わんか。」


「そ、そうですね。すみません、周りを見られてなくて。…ラリサ、侯爵様の御厚意だから、ご飯を頂こう。」


「うん…。侯爵様、ありがとう、ございます。」


ラリサも僕達の輪に加わり、和やかな食事会は進んだ。



―――



食事の後、僕達はアベール家の応接間に移動した。

うーん、満腹だ。


「侯爵様、ごちそう様でした。とても美味しかったです。」


「それは良かった。…ラリサ、お前はどうだったかな?」


「は、はい。おいし…かったです。」


話を振られたラリサは僕の後ろでもじもじしながら答えた。


「さてカールよ。その後北の山の開発は進んだのか? 拠点となる町の建設は進んだようだが。」


「はい。お陰様でそこは順調です。第2騎士団の皆さんが町の建設や周囲の防衛をかなり手伝っていただけているので、僕達の手の者は森や山の探索に専念できています。現在は北の巨木周辺の調査を行っており、有望な調査結果が得られそうだと聞いております。」


「有望な調査結果とは?」


「植物学者アルヴィンの見解ではあの周辺の植物は強い魔力マナの影響を受けているようで…。周辺の地下や岩盤の掘削調査を行っています。」


「なるほど。何か魔鉱の鉱脈などがあれば儲けものだな。」


「そうですね。何か分かりましたらすぐにお知らせしますよ。」


「うむ。期待している。」


アベールが満足そうに頷いた。


「そう言えばアベールおじさま。以前我がジーメンス家にいらしたかつての副官のロベルトさんがおっしゃっていましたが、国王陛下が探りを入れてきていると言うのは本当なのですか?」


「うむ。我が屋敷の周りにも王国情報部の諜報員と思われる姿を見ることがある。アイナは儂が第2騎士団の一部に関わりがあるのは知っているな?」


「はい、伺っております。」


「第2騎士団全体では無いがな。それも聞いているだろうが、第2騎士団の暗部からの情報だから間違いないと考えている。」


国王陛下…、ベルクール三世はどのような気持ちでこちらを探ってきているのだろう?


「でも何故なんでしょうか? 僕達をしては敵対するつもりはないのですが。」


「カールよ、お主はまだ根が子供だから分からんかもしれないが、政治とはただ単に敵とか味方とかの気持ちだけでは片付けられんのだよ。国王陛下あのぼうやからしたら自分の臣下の筈の者が、自分のあずかり知らぬ動きを見せていればそれは気になると言うものだ。」


「それは確かに…」


「まぁそのあたりに関しては儂らに任せてもらえばよろしい。引き続き、調査の方はよろしく頼むぞ。」


「分かりました。」


僕はこくりと頷いた。










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