第48話 王との対峙(前)
王都滞在3日目、今日は僕が登城する日だ。
ナイザール王国の貴族は1年の間に1か月王都に参勤する決まりになっているのは前に述べたとおりだが、その順番は役職や家格によって決められていた。
我がジーメンス家は実際には地方の貧乏貴族であったが伯爵家である為、家格はそこそこ高い貴族と言って良い。
その為参勤における王へ拝謁する順番はそこそこ前の方だ。
「一同、面を上げよ。」
ここは謁見の間。
周りには僕と同じくらいの家格の貴族達が一堂に会していた。
そして目の前には玉座があり、そこにはナイザール国王ベルクール三世が座っていた。
「うむ、皆の者、大儀である。私としても皆が壮健そうな顔で喜ばしく思っておるぞ。」
ベルクール三世が笑いながら言った…が、あれはどうも作り笑いという感じがするな。
参勤でのこの拝謁は所謂儀式みたいなものだ。
おそらく何らかの伝統に則ったものなのだろうが、僕はそのあたりの教育を受けていないのでよく分からない。
これについてはアベール侯爵が、どうせ聞いていても何にもならんから聞いたふりをしておれば良いぞガッハッハ、と言っていたので僕もそうすることにした。
さてそ拝謁の儀も滞りなく続き、僕達は大きな会場へ移動し王家主催の晩餐会へと移った。
「う~~ん…」
「あらカール君。お行儀が悪いわよ。」
「ごめんごめん。こういうの初めてだから…」
アイナに注意され僕は思わず赤面した。
アイナの方を見ると、淡いピンクのドレスで着飾っていた。
決して派手では無いが色合いがアイナによく似合っていて実に美しい。
僕達の傍らには使用人として同行しているラリサもいた。
「これはこれは、貴殿が噂のジーメンス卿ですかな。」
誰かに話しかけられた。
声がした方向を見ると若そうな(それでも僕よりも年上だろうが)男がいた。
「はい、僕はカール・ジーメンスと申します。あなたは?」
「これは失礼。私はエーベルハルト侯爵家当主、フォルカーと申します。」
この男、フォルカー・エーベルハルトと名乗った。
侯爵という事は僕より爵位が上だな。
「こちらこそ失礼致しました。僕の横におりますのは婚約者のアイナ、後ろの者は当家の使用人のラリサです。」
僕は姿勢を正し、アイナとラリサの紹介を行った。
「ところでエーベルハルト侯爵様、僕にの噂とは…?」
「ああ、いや、別に悪い噂ではありませぬよ。国王陛下の御覚え厚く、またあのアベール侯爵にも気に入られているとか。またフリーデル殿下を家令として召し抱えているそうですな。」
「え、ええ。そうですが…」
「いやあ、ナイザール王国広しと言えど、なかなか貴方のような貴族はいませんからな。」
「なるほど…」
このエーベルハルトと言う男、表情はにこやかだが目は僕の事を値踏みをしているような感じがするな。
「ジーメンス卿、貴方は農業改革を行い収穫量を増やられたとも聞いております。是非とも、私にもその極意を教えていただきたいものですな。」
「いやいや…、これも領民のお陰でして…」
うーん、めんどくさい。これが対貴族の付き合いと言うものなのか…。
「ほう、これは珍しい組み合わせだな。」
「これは陛下…!」
ベルクール三世が僕達の方へ歩いてきた。
僕とエーベルハルトは恭しく一礼した。
「どうだ、楽しくやってくれているかな?」
「それはもう…。本日は初めてジーメンス卿と話もできましたもので…」
エーベルハルトが答えた。
「そうか、それは上々なことだ。私も少しジーメンス卿と話がしたいのだが、ちょっと彼を借りても良いかな?」
「は…、畏まりました。では私はこれで…」
エーベルハルトは会釈をするとこの場を離れていった。
「さて、カールよ。久々にお前とゆっくり話がしたいのだが、ちょっとバルコニーに出ないか?」
「それは、僕と二人で、と言う事ですか?」
「そうだな。奥方殿とその護衛殿はここで待ってもらうことになるが。」
「分かりました。…アイナ、ラリサ、ちょっと行ってくる。」
僕はそう言い、ベルクール三世と共に会場のバルコニーへと向かった。
バルコニーに出ると、そこからは王都の街並みが一望出来た。
「相変わらず、美しい町並みですね。国王陛下。」
「…ケルト兄さん、だろう?」
「そうでした、ケルト兄さん。」
僕は苦笑した。以前公の場以外ではケルト兄さんと呼ぶ、その様な約束をしたんだったな。
「カール、お前とはうまくやっていけると思っていたんだがな…」
「何を仰りたいのですか?」
「ふむ、単刀直入に行こう。カールよ、お前はアベール等といったい何を企んでいるのだ?」
ベルクール三世がバルコニーの椅子に腰を下ろした。
「企む…とは何を言ってるのか分かりませんが…、アベール侯爵様は我が領地の農業に多大な援助をして下さっています。」
「左様か。」
「はい。」
ベルクール三世が腕を組みながら僕の方を見てきた。
「我が手の者が、何人か行方不明になっている。」
「手の者…とは?」
「王家直属の諜報員だ。知っているか?」
ロベルトや第2騎士団の暗部が言ってたやつだな。
しかしこれは、知らない事にしておいた方が良いだろう。
「いえ…。しかしそれは、ケルト兄さんは我がジーメンス領を探っているという事ですか?」
「そうだ。」
「そうですか…」
どうやら否定はしないようだ。
僕はベルクール三世の顔を見た。
為政者として、自らの考えと異なったり疑念のある相手に対して探りを入れる。それは正しい事だ。
ベルクール三世の顔は、まさにその覚悟がある顔であった。
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