第49話 王との対峙(後)

「ケルト兄さん、貴方は僕からどのような答えが返ってくるのをお望みですか?」


僕はベルクール三世に視線を向けた。

ここは度胸比べだ。


「何だと…?」


「僕は、ジーメンス家はナイザール王国の家臣です。そして貴方は僕の主君です。」


「そうだな。ならば、お前は私の臣下として、私の問いに答えるべきだ。」


「そうですね。ですのでお答えいたします。」


僕はふうーっと息を吐いた。


「僕が領地でやっていることは、自らの領民たちの生活を向上させるための事業です。これ以上はお答えできません。」


「何…?」


「フリーデルから聞いています。王国の法によれば、僕達領主は自らの領地においては広範な自治権が認められています。我がジーメンス家の忠義は、我が義父ちちによって証明されているでしょう。」


ここで気圧されてはいけない。僕はぎゅっと拳を握り締めた。


「それが、カール、お前の答えか…」


ベルクール三世が目を瞑った。そしておもむろに右手を上げた。

すると物陰から覆面で顔を隠し黒い装束を纏った男が現れた。


「…!? ケルト兄さん、これは!」


これは脅しだ。


「私も、この様な手は使いたくない。それでも答えは変わらぬか?」


「・・・」


僕はごくりとつばを飲み込んだ。

僕には戦闘能力はない。目の前のこの黒装束の男に対して、何をすることも出来ないだろう。

でも僕も何も対策をしていない訳では無い。


「わたしの出番、だね。」


僕の影から、声がした。これが僕の策だ。


「何…?」


ベルクール三世が目を見開いた。

僕の影から姿を現したのはそう、ラリサだ。


「転移して来ただと? お前は…、あの時の暗殺者か。」


「へえ、あの、王様だね。」


ラリサが腰に忍ばせていた担当に手を伸ばした。

それに呼応するように、黒装束の男も剣に手を掛けた。


「カールよ、これはどういう事なのだ?」


「ご紹介がまだでしたね。この者は僕の使用人で、護衛です。先程の晩さん会会場にもいたのですが、気付きませんでしたか?」


「この者は、王宮を襲撃し私を暗殺しようとしたのだぞ。…しかもお前の義父ちち、先代ジーメンス伯の仇だと知っているのか?」


「はい、知っています。その上で僕はこの者を、仲間に迎えたのです。立場上僕の奴隷でありますので、この者は僕の命令しか聞きません。」


僕はラリサの方をチラッと見た。


「うん、わたしはカールの言う事しか聞かない。わたしはもう王様あなたの命には興味が無いけど、わたしはカールを守る為なら何でもするよ。」


ラリサがベルクール三世と配下の黒装束の男へ強い視線を向けた。

黒装束の男は表情は分からないが、少し小刻みに手が震えているように見えた。


「ふむ…。今ここにいる、我が手の者ではその者には敵わぬか…」


ベルクール三世がそれに気が付いた様だ。

彼が手で黒装束の男を制すると、男はその場を離れていった。


「やむを得ぬ。カールよ、今日のところは私が引き下がろう。」


「…賢明なご判断を頂きありがとうございます。」


僕は王へ一礼した。


「カールよ。この1年で、お前も強くなったようだな。」


「僕なんか、全然強くありませんよ。これも全て、仲間や領民たちのお陰です。」


「ふん、皮肉で言っているのだよ。…まぁ、これからも民の為に働くことだな。」


ベルクール三世は背を向けると、足早に去っていった。



―――



「ふぁぁぁっ!」


僕はソファに腰かけると何とも言えない声を出した。


「えーっと、大変だったみたいだね。カール君。」


僕の傍らではアイナが苦笑いを浮かべていた。

ここは宿として使わせてもらっているアベールの屋敷の客間だ。


「うーん、国王陛下と対峙するなんて聞いてないよ~」


「そうだね。でも、負けなかったんでしょ?」


「勝ち負けとかはよく分からないけど…」


「無事に帰ってきただけでも、良しとしなきゃ。ねえ、ラリサ。カール君どうだった?」


アイナがラリサの方を見た。


「え? えと、うーん。」


ラリサが右手で自分の頬を触った。


「カール様、は、ちょっとカッコよかった、かな?」


何か、ラリサの顔がまた少し赤くなっているように見える。


「ふ~ん、かっこよかったねえ…」


アイナが腕を組んで僕の方を向いた。

なんかちょっと、ピクピクしてる気がする…。


僕は見なかったことにして、目を瞑った






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