第50話 sideフリーデル-スラムの酒場にて
「なるほど、きな臭くなってきたか…」
「は…」
王城にて貴族達を集めた晩餐会が行われている頃、私はスラム街に近い酒場にいた。
私の前にいるのは王都にて仕えていた頃から付き合いのある情報屋だ。
カール様に仕えるようになってからも王都での情報収集に従事してもらっているのだ。
「フム、この事はアベール侯爵の手の者も掴んでいるかな?」
「“暗部”でありますか…?。第2騎士団は軍隊でありますから、軍事に関わる部分では何か察知しているかもしれませぬ。我々はあくまで経済部門でありますから…」
目の前の情報屋は軍属ではない。多国に支店を広げるバルデレミー商会に所属していて、経済的な部分から分析した情報を私にもたらしてくれる。
「それでイサークよ。お前の見立てはどうだ?」
「はい。私が調べましたところによりますと、特に北部にて鉄やミスリル、そして麦等の穀物に値動きが見られます。」
情報屋イサークがノートを広げた。これはここ半年に渡る様々な物品の相場データが記載されている。値動きの統計を分析することで、その時々の情勢を探ることが可能だ。
「鉄やミスリルが3カ月ほど前から値上がりしております。フリーデル様もご存知の通り、これらは軍需品…つまり武器の材料となります。また穀物等食糧にも値上がりが見られますれば…」
戦争と言うものは兵士がいれば良いもの、と言うものでは無い。
戦うためには武器が要るし、何より食糧が必要だ。
「相場に動きがみられるほど、か。魔鉱物類はどうかな?」
「ナイザール王国では魔鉱物類は輸入品ですから、そちらへの影響はまだ見られません。」
「ふむ…。しかし現在の情報でも、北部にて戦争に関わる何かが行われている可能性があるな。そうだ、イサークよ。もし北部にて荷役に使うもの、馬車や人夫の確保が見られないか調べられるか?」
戦争に兵站は重要だ。物資があっても、前線へそれらを運ぶ手段が要る。
「畏まりました。それについても我が商会にて調べましょう。一週間程で連絡が出来ると思います。」
「よろしく頼む。」
私がそう答えると、情報屋のイサークは酒場を出て行った。
戦争の準備とも思える、ここ最近の物価の動き…。
これはアベール侯爵にも報告しなければなるまい。
「おう、そこの兄ちゃんよ…!」
腕組みしながら思案していると後ろの方から、いかにも! と言うような声がした。
声がした方を向くと、大柄な冒険者風の男がいた。
左右には取り巻きと思しき者を従えていた。
どうやら私を呼んだのはこの取り巻きのどちらからしい。
「兄ちゃん、貴族かい? 貴族サマがこんなスラムに来ちゃいけねえな。」
取り巻きの一人が私に突っかかってきた。
「ふむ、何が言いたい?」
「貴族サマがスラムに一人で来ちゃ、身の安全が守れねえってモンだ。仕方ねえから俺達があんたの身の安全を守ってやるよ。…
その男が腰に下げた剣の柄をポンポンと叩いた。
なるほど、つまりこいつらは私を脅しているようだ。
「なるほど、それは頼もしい限りだな。しかし、もし私がそれを断ったらどうなるんだい?」
「へへへ…。俺達の申し出を断った奴らで、無事なモンは…」
「待て…」
それまで黙っていた大柄の男が取り巻きを制止した。
「もしかして
「はは、相変わらずだな。ジェフよ。」
私は眼鏡を取り、大柄の男=ジェフの方を見た。
「ははは!
「俺も今では主がいるのだ。こう見えても忙しいんだよ。」
おっと、つい口調が昔に戻ってしまったな。
「あ、あのジェフのアニキ。この貴族…サマ、知り合いで?」
取り巻きが口をポカーンとさせていた。
「ばかやろう!! この、フリーデルの
「え、ええ!? 俺達の中で伝説になってる…!」
「大袈裟だな、昔の話だ。」
私はやれやれと言うように肩をすくめた。
そう、私は王族であるがかつて学園に通っていた頃は裏でやんちゃしていたものだ。
とは言ってもどこでも構わず、と言うつもりは無かったのだが。
「そういう訳にもいかねえ! ただのチンピラだった俺達を率いて、
「しかしジェフよ。お前達はまだあんな事をやっているのか…?」
「へへへ、ビジネスだよ…」
ジェフが頭を掻いた。まあ私も身に覚えがあるからこれ以上は突っ込むつもりも無いが、誰にも彼にもそんなことをやられると困るな。
ここは少し諫めておくか。
「お前の口からビジネスと言う言葉を聞くとは思わなかったな。」
「へへ。だがね聞いてくれよ、
「む、何かあったのか?」
「俺達もそこそこまっとうな商売はしてたんだよ。例えば商家や貴族の用心棒とかな。」
「ほう、そうなのか?」
「ああ、だが最近は商売あがったりでさ。どうも、最近俺達の縄張りに近い貴族共が家族を王都から出してるみたいでな。」
ジェフの言葉を聞いて、私は目を見開いた。
「おい、ジェフ。その貴族達がだいたいどこに住んでいる者か分かるか?」
「あ、
思う。」
「ジェフ、出来れば明日までにその情報をくれ。俺はアベール侯爵の屋敷に滞在しているから、明日昼頃訪ねてきてくれるか?」
「あ、ああ。分かった、
「頼んだぞ。…それとこれは情報量だ。これで酒でも飲んでくれ。」
私はジェフに金が入った袋を渡すと、小走りで酒場を出た。
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