第51話 帰り道にて

1カ月の参勤を終え、僕達は王都からの帰路についた。

王都でいろいろな物資も購入したため、アベール侯爵から馬車を1台借りて運搬用とした。購入した以上のお土産が追加されている気もするが…。

そして人員も新たに加わった。少し人相の悪い、20名程の集団だ。


「へへへ、ジーメンス伯爵様。よろしくお願いしやす…」


僕にこう挨拶してきたのは、この集団“アルバ”ののリーダー格であるジェフと言う大柄の男だ。フリーデルが言うには、自身の学生時代つるんできた仲間だそうだ。


「カール様、過去を掘り返すのは野暮と言うものですよ。」


フリーデルは笑いながら、詳しくは答えなかった。

こんな真面目なフリーデルも、昔はやんちゃだったってことなのかな。


さて、帰りの行程もいつも通りの道だ。

ここ何回の旅の中で宿となる場所も見つけてあるし、慣れた道だ。


「そうそう、カール様。アベール侯爵の邸宅で少し話した件ですが…」


フリーデルが僕の方を向いて話しかけてきた。


「えーっと、きな臭いって話だっけ。」


「はい。申し上げましたように、地域の経済や流通からも、その土地の情勢を探ることは出来ます。」


「アベール侯爵はまだ動きを掴んでなかったんだっけ?」


「得手不得手と言うものです。侯爵は軍人出身でありますから、その繋がりでの諜報活動と言いますれば…」


なるほど。いずれアベール侯爵の手の者も情報を掴むだろうけど、今回は先に経済のほうに影響が見られたわけか。


「また“アルバ”のジェフの情報では、王都の一部貴族が自らの家族を脱出させたとの事。その多くは“北の派閥”の貴族達の様です。」


“北の派閥”。

それはナイザール王国にある三大派閥のうちの一つだ。

一つ目はベルクール三世を戴く王党派。

二つ目はアベール侯爵が率いる派閥。

そして三つ目がこの“北の派閥”だ。

ナイザール王国は国号こそ長い歴史を重ねていたが、現王朝のマルゴワールの治世は数十年程だ。“北の派閥”に属する貴族達は、前王朝・ヘンドリクセン家が倒れたのだが(そもそもこの王朝は王位を兄弟で争っていたのであるが)、ヘンドリクセン家の影響力が強かったそうだ。

結果としてヘンドリクセン家の分家であるマルゴワール家が現王朝を打ち立てた時、これらの貴族達は独立を志向したこともあるらしい。

つまり“北の派閥”は現在においても王国中央とは一定の距離があると言えよう。


「へえ。フリーデルの愚連隊はなかなかの能力があるようね。」


アイナが隣から口を挟んできた。


「ははは。アイナ様から愚連隊というお言葉が出るとは思いませんでしたな。まあ私は率いていた頃からは代替わりをしておりますが、今でもそれなりな実力はあるようですよ。」


ふむふむ。確かにあのジェフと言う男はフリーデルを尊敬しているような態度であったし、おそらくフリーデルが言う通りなのだろう。


「それで僕達は今後どうするべきだろう?」


「はい。現在のジーメンス家としてやるべきことは二つです。…広義にはジーメンス家はアベール侯爵の派閥にいるものと見なされています。」


「あれだけアベール侯爵の家に行ってればそうだね…」


「また先代ジーメンス伯爵の忠節の件もありますので、反王党派とも見なされていません。まずはジーメンス家にとって誰が敵か味方か見極める事が最優先でしょう。」


「うーん…」


僕自身に、それを見極める目は、残念ながらまだ無い。


「その辺は先程の情報もアベール侯爵に伝えましたから、そちらの動きも待つべきでしょう。…二つ目は領内に来るかもしれないおいて不測の事態に備える事です。」


「それはどういうこと・・・?」


「はい。ジーメンス伯爵領は良くも悪くも田舎の村といった風情ですから、外敵の侵略への備えが乏しいのが現実です。郊外に第2軍の一部が駐留してはおりますが、自前での備えも肝要です。私としてはもし仮に外敵に攻められた時、ハルピュイアビルを拠点と出来るようにしたいと考えています。」


ハルピュイアビルは、現在王国の地図に無い町だ。

領地の北方山脈の開発拠点でもあるが、守りの拠点として設営を進めても外へ洩れる事は無いだろう。


「分かった。それについては一任する。」


「かしこまりました。資金に関しては既に試験採掘を始めた鉱物類等もありますから…」


フリーデルが僕のとなりにいるアイナの方を見た。


「それについてはウチの実家に任せておいてね。足が付かないように売りさばいて見せるから。」


フリーデルの言葉に、アイナがにこやかな顔で続いた。

うん、僕のお嫁さんは実に頼もしい。










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