第5話 謁見、そして
「ジーメンス伯爵が長子、カール。面を上げよ。」
「は、はい…」
前日、義父との悲しみ対面をした僕はナイザール国王ケルトナー・ベルクール三世の眼前に跪いていた。
顔を上げると若年の国王がそこにいた。僕よりも年上であろうが、それでも10代も半ば過ぎと言うところだろうか。
「その方がカールか。」
そう言うとベルクール三世が僕に近付いいてきた。
そして僕の前に立つとしゃがみ込んで僕の手を取った。
ざわめく周囲の貴族達。自国の王が獣人の手を取っている事に驚いているのだろう。
「ジーメンス伯爵の事は…残念だった。伯爵は賊から私を守って戦ってくれた。彼は真の忠臣だったよ。」
「…もったいないお言葉です。」
僕がそう答えると、ベルクール三世は自らの玉座に戻った。
「ジーメンス伯爵の弔いに関しては、国王である私が責任を持ってさせていただこう。慣例に則って火葬となるがよろしいかな?」
「はい、全てお任せいたします。」
残念ながらジーメンス領まで遺体を運ぶのは現実的ではない。気温が高くなってきたこの季節では腐敗が進んでしまう可能性があるからだ。
「よろしい。…さて、本日その方を呼んだのは他では無い。
ベルクール三世の言う通りだ。いくら辺境の領地とは言ってもそこには領民の暮らしがあり、それを守っていかなくてはならない。
「王国の忠臣たるジーメンス伯爵家当主は残念な事に亡くなってしまったが、不幸中の幸いにも、伯には愛息がいたことに私は安心している。」
ベルクール三世が僕を見た。そして周囲を見渡した。
「私はここに、そこにいるカールがジーメンス伯爵家の当主になることを認める。皆の者、異論はあるまいな?」
貴族たちが再びどよめいた。
いや、先程よりも大きなどよめきだ。
「お待ちください、陛下。」
貴族の一人が声を上げた。
アベール侯爵の側に控えていた者だから、おそらくは人族至上主義の貴族なのだろう。
「恐れながら申し上げます。伝統あるジーメンス伯爵家の跡取りに、獣人を据えるとおっしゃるのですか…?」
「そうだ。そこなカールはジーメンス伯爵の養子なのだから、その権利はあろう。」
「しかし! 跡取りは獣人などでは無く由緒ある他家より、しかるべき養子を迎えるべきではありませぬか!?」
その貴族が食い下がった。
そして更に発言しようとしたとき、隣にいたアベール侯爵が口を挟んだ。
「控えよ。これは陛下が認められたのだぞ。」
人族至上主義一派の筆頭格のアベール侯爵が諫めるような発言をしたことに、その貴族は驚きの表情を浮かべた。
「こ、侯爵!?」
「貴様の言う通りジーメンス伯爵家に他家より跡取りを迎えるのであれば、それなりの家格で無ければいかんな? そうだ、貴様の家は伯爵なのだから、次男を出したらどうだ?」
「な、何を…?」
「王都から遠く離れた辺境では苦労するだろうなぁ。どうだ? 貴様の次男殿を養子に送り込んでみては?」
「い、いえ、それは…」
その貴族は顔を歪めて後ろへ引き下がった。
「陛下、我が一派の者がお騒がせを致しました。辺境の地を治めていくのは、そこな獣人殿に相応しいでしょう。」
アベール侯爵がこちらをチラッと見てから、国王へ向けて一礼した。
「ふむ、アベールよ。そなたは言い繕うことをしないのは好ましく思うぞ。」
「はっ。なれば、そこな獣人殿、失礼、ジーメンス伯爵殿には先代伯に下賜すべき恩賞を送るべきと考えまする。」
「ふむ、ではそれはその方に任せよう。一両日中に纏め、宰相へ案を提出せよ。」
「畏まりました。」
ベルクール三世の言葉に、アベール侯爵が恭しく一礼した。
「さて、この場はこれで終わりだ。皆の者、下がってよい。…カール・ジーメンス伯爵。後で我が部屋に来い。これは王命であるぞ。」
謁見がようやく終わったと思ったのだが…
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