第57話 ハルピュイアビルの町づくり


「へ、へぇ…! だいぶ凄くなったね。」


その日、僕は久方ぶりにハルピュイアビルを訪れていた。

ここはハルピュイアビルの町並みを一望することができる城壁の上だ。

僕が最初にハルピュイアビルに訪れたときはまさに村という佇まいであったが、これはもはや完全に町といっても過言ではない。

この町の整備の指揮に関してはほとんどをフリーデルとマリーナに任せていたから、実のところどうなっていたか把握できていなかったのだ。


「はい。先日町の防衛に最低限必要な施設は粗方完成致しました。」


案内人は先述のマリーナだ。彼女マリーナはフリーデルの補佐官として非常に優秀であり、着実な仕事をこなしてくれている。


「粗方…ってことは、まだ完成形では無いのかい?」


「はい。これはナイザール王国第2騎士団の方々のアドバイスでもあったのですが、外敵がこの町に迫る前に足止めできる施設があった方が良いとのこと。この町に至る道は一つしかありませんので、その道中に堀と防御砦を作ることとしました。」


「それはあの遺跡のところを工事してたやつかい?」


「はい、あの場所は森の玄関口であり、最適です。防御砦が出来次第、周辺に堀を作る予定です。」


「んーでも、それ程大規模に工事していたら、そろそろ誰かにハルピュイアビルの存在がばれないかな?」


この工事の規模はもはや森の奥でこそこそやっている域を超えてしまっているように思えた。


「カール様、それは…」


「それは…?」


「仮にばれてしまったとしても、それは致し方無い事です。要はばれてしまったときには必要は準備を整えてしまっていれば良いのです。」


な、なんと豪胆な…。

でも確かにマリーナの言う通りだろう。


「それでマリーナ。今の段階で何か足りないことや要望はあるかな? フリーデルでもある程度考えているとは思うが…」


「はい、そうですね…。では可能であれば鍛冶師エミールの工廠をこちらに移していただくことはできませんでしょうか。現在のハルピュイアビルは町を守る“ガワ”は立派になって参りましたが、武器や防具は第2騎士団に援助していただいた分しかありません。有事には第2騎士団が援軍に立ってくれるしても、自力で武器や防具を製造できるようにしなければなりません。」


ふむ、マリーナの言うことももっともだ。

現在ではジーメンス領地の方の鍛冶師に関してはエミールの指導の下、人材は育ってきている。

エミールとその何人かをこちらに移しても問題はないだろう。


「分かった。そのように手配しよう。」


僕は頷きながら答えた。


「カール様、ありがとうございます。」


マリーナが僕に向かって一礼した。


「その他はどうかな? 町の規模が大きくなっている割には人が少ないように思えるけど…」


「ああ、あちらのことを仰っているのですね?」


マリーナが町の東側を指さした。

その方向には複数の建物が建造されているものの、人気がなくひっそりとしたエリアが存在していた。

まるで無人の町並みである。


「うん。あれは何のためにあるエリアなんだい?」


「はい。あれは有事の際にジーメンス領農村域に住んでいる領民、おおよそ300名を避難させるための場所です。あのエリアの北側の森は今後開墾し、農地を拓く予定です。」


なんと無人の町とも言える場所は、避難場所だった。

300名と言うのは、ハルピュイアビルを除くジーメンス領の人口である。

確かにあれくらいの広さであれば、300名程度は収容できるだろう。


「フリーデル様は万が一の事態を、想定しています。私の役目は、それに備えて知恵を働かせる、それだけです。」


なんと力強い言葉だろう。

しかし僕が見られていない部分がまだまだあるんだな…


「うーん、マリーナ。苦労を掛けるね。もうちょっと僕がこっちのほうまで見ることができれば良いのだけれど。」


それを聞いたマリーナがキョトンとした表情になった。


「何を仰います、カール様。あなた様はまだ12歳の子供でらっしゃいます。それなのに領地経営に携わっているだけでも、凄いことなのですよ。」


「そ、そうかな…?」


「そうですよ。カール様はもっと大人を頼りになさいませ。」


マリーナがそう言いながら僕の頭をわしゃわしゃと撫で始めた。

ああ、子ども扱いされてしまったな…

でもまあ、仕方ないか。

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