第22話 久しぶりの謁見、婚約の裁可
「オルロヴァ太守ディオン様、ご息女アイナ様、謁見の間にお入りください。」
ナイザール王ベルクール三世の従者に呼ばれディオンとアイナが謁見の間に入っていった。僕はその二人がの姿を見送った。
「次にカール・ジーメンス伯、謁見の間にお入りください。」
「はい。」
僕は謁見の間の入口で一礼し、奥へを歩を進めた。
そしてベルクール三世の玉座から少し離れた所で片膝を着いた。
「国王陛下におかれましては…」
「カール!」
挨拶の口上を述べようとしたらベルクール三世に大声で止められてしまった。
「ケルト兄さん、だ。」
「あー、えーっと。それここでも適用されます?」
「無論! 王命だからな。」
「あ、あー。ケルト兄さん、お久しぶりです。」
「うむ、よろしい!」
ベルクール三世の顔を見ると満足そうな顔で頷いた。
隣を見ると、ディオンとアイナがクスクスと笑っていた。
「さて話は聞いたぞ、カール。ディオン殿のご息女と婚約したそうだな!」
「はい、経緯は書状で申し上げました通りで…」
「うむ、めでたい事だ。しかしまさかあのディオン殿が、ご息女を我が臣下の嫁に出すとは思わなかったぞ。」
ベルクール三世が僕から少し離れた所にいるディオンの方を見た。
「ははは。私の方こそ、じゃじゃ馬を貰ってくれる方が現れるとは思いませんでしたぞ。」
「まぁ! お父様!」
ディオンの答えにアイナが頬をぷくっと膨らませた。
「ご息女殿、アイナと申したな。差し支えなければ、カールのどこに惹かれたか教えてくれるかな? 単なる政略結婚では無いのであろう?」
「ズバリ聞かれますね、ベルクール陛下。はい、私はカール君をお慕いしております。」
アイナが僕の服の肘の辺りを掴んだ。
「カール君の第一印象は、まぁこの子可愛い! でした。」
「か、かわ…!?」
僕は思わず赤面した。
「そしてお話していくうちに、私より年下なのに、何て大人びていて他人の事を考えているお優しい方なんだろうと思いました。その中にたまに見せる、子供らしい表情も好きになりました。」
「なるほど、良く見ておるのだな。カール、お前は幸せ者だな。」
「は、はい! 本当に…!」
うーん、言葉が続かない。
公の場所でこんなことを言われたことなんか無いし、アイナはささやかな丘を押し付けてくるし…
「はっはっは。まさか王の前でいちゃついてくれるとは思わなかったぞ。うむ、ナイザール国王ベルクール三世の名において、カール・ジーメンスとオルロヴァ太守が息女アイナの婚約を許可する。」
「は、ありがとうございます。」
僕とアイナが揃って一礼した。
「何か祝儀に取らすとしよう。カールとアイナよ、何か欲しいものは無いかな?」
「私は特にありません。カール君は…?」
「うーん、そうですね…」
祝儀か。うーん、どうしても欲しいものと言うのは無いけれど…。
あ、そうだ!
「ケルト兄さん、ひとつ欲しいものがあります。」
「ふむ、それは何かな?」
「はい。もし可能であれば鉄鉱石を少し頂けませんでしょうか?」
「鉄鉱石とな? 何故だ?」
「はい。春以降の農業に役立てるために、鉄製の農機具を製作したいと思っています。」
「農機具か…。そう言えば今日は兄上の姿が見えんな。」
ベルクール三世の言葉に僕は少しドキっとした。
フリーデルがいない理由を感づかれてはいけないな。
「フリーデルは農機具を製作できる鍛冶職人を探しに街に出ています。当家には鍛冶職人がいないので、アベール侯爵の紹介を頂いていると聞いております。職人が見つかれば鉄鉱石の買い付けを行いたいと言っていましたが、もし国王陛下から賜れれば、まぁ率直に言えば手間が省けます。」
僕はじっとベルクール三世の顔を見た。
交渉術も見につけないといけないからな。
「ははは、手間が省けるか。言ってくれるな。良かろう、部下に命じて準備させよう。1日程度貰えれば十分だろう。」
「はい、ありがとうございます。ケルト兄さん。」
僕は深々と一礼した。
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