第21話 王都での悪だくみ

「おう、来たか!」


アベール侯爵が手を上げて僕とフリーデルを出迎えた。

ここは王都にあるアベール侯爵の屋敷だ。

アベール侯爵程力がある大貴族になれば、自分の領地以外に別邸を持っているのだ。


「お久しぶりです。アベール侯爵様。」


「そうだのう。中々顔を見せんから、毎週の様に書状を送ってしまったわい。」


「すみません。義父ちちの跡を継いでから自分の仕事で精一杯だったので…」


僕はぽりぽりと頭を掻いた。


「ふむ、ジーメンス領から送られてきた米だが、なかなか良い出来だったようだな。」


「ええ、お陰様で。侯爵様から頂いた種籾から良い米が出来ました。ありがとうございました。」


「まぁこんなところで立ち話もなんだから、中へ入るが良い。」


アベール侯爵に促され、僕達は応接間に入った。


「まぁ、そこに座れ…。フリーデル殿下も久しぶりですな。」


「アベール侯爵様、今の私はカール様の家令ですので…」


「ふむ。確かに世間体もありますからな…。ではフリーデル殿と呼ばせて頂こうか。」


アベール侯爵がドカッと自分のソファに腰を掛けた。


「まずはジーメンス伯、ご婚約おめでとう。未来の奥方殿はお連れじゃないのかな?」


「アイナは王都には連れて参りましたがオルロヴァのディオン様も同道されていますので、王城に近いところにある宿におります。」


「国王陛下との謁見の予定は?」


「陛下には使いを出しておりますので、日程の下知を待っています。」


「なるほどな。まあ陛下の事だから、あまり待たせるような事はせんだろう。私はしばらく王都にいるから、謁見が終わったら奥方殿も連れてくるが良いぞ。」


「承知しました。」


僕の答えに、アベール侯爵は満足そうに頷いた。


「さてフリーデル殿、あの書状の事はジーメンス伯にも?」


「はい。道中馬車の中でお話しました。当初は私一人で動こうと思ったのですが、お話しましたらカール様もこの悪だくみに参加されたいと…」


「悪だくみ…。ハハハ、悪だくみか!」


アベール侯爵が豪快に笑った。


「ジーメンス伯、いや、カールよ。これからやろうとすることは子供のいたずらじゃないんだぞ。それでも自ら加担したいと…?」


「政治はきれいごとだけじゃないと、どこかで聞いたような気がします。それに侯爵様程の方が加担するんだから、きっと逃げ道があるのだと思いました。」


「ははは、フリーデル殿。貴方は良い主人あるじをお持ちだ。」


「でしょう。その主人あるじが面白い花嫁を迎えたので、これからも毎日が退屈しなさそうですよ。」


フリーデルも笑みを浮かべながら応じた。

これが、大人の世界、なのかな?


「まぁ良い。カール、フリーデル殿から概要は聞いたのだろう。」


「ええ。ジーメンス領の北の山地を開発するとか。」


「そうだ。あの山地だが今は休火山なのだが、かつては活発な火山活動が行われていたらしい。火山活動が収まって久しいが、有史以来開発をされたことが無かったようだ。」


「火山活動によって何らかの鉱床があるかもしれない、という事ですね。でも何故今まで何も開発されてこなかったのでしょう?」


「まぁそれは場所が場所だったからだろうな。あの山地は王国中央からも遠過ぎる。そしてあのあたりには野生の猛獣・魔物もいるだろう。」


なるほど。すぐ近くにいたはずのジーメンス伯爵家がその気を起こさない限り、手を出しにくい地だったわけだ。


「そこで我々の出番と言うわけです。ジーメンス伯爵家がその気になれば開発の拠点となることが出来ます。」


ジーメンス伯爵家は家格はあれども、ただの田舎領主だった。

義父ちちも隔年で参勤をしていたし、歴代領主も開発に乗り出す余裕は無かったのだろう。


「でも二つほど、疑問があります。」


「何かな?」


「まずフリーデル。あなたは国王陛下の兄君にあたる人だ。何故そのような人が、国王陛下に秘密にしてこのような事をするのだろう?」


僕はフリーデルを見た。

悪だくみ、というくらいだから、王国中央に内密に事を進めるのだろう。

何故フリーデルは自分の弟に隠し事をするのだろうか?


「私は、ジーメンス領の発展のために仕事をしています。カール様や領民の為に尽くしたいだけです。」


「なるほど。それともうひとつ。」


僕はアベール侯爵を見た。


「仮に何らかの鉱床等を見つけたとして、その所有権は誰が持つのでしょうか? ここはナイザール王国領ではあるが、どの者の知行地でもないと聞きました。そのような場所にある資源は、誰のものなのですか?」


「そこはカラクリを使う。あの山地は王国の代官所も無いから直轄地では無い。いわば未開の地だ。もし何者かが未開の地で何かを発見した場合、最初に見つけたものに占有権が与えられる。その者から我々が権利を買い上げれば、我らがそれを持つことになるのだよ。」


「その為に王都にて人を集め、開拓団を結成しようと考えたのです。それについて、アベール侯爵様に口を利いていただくつもりです。」


フリーデルがアベール侯爵に続いた。


なるほど。確かにアベール侯爵ならば多方面に口利きが出来る筈だ。

僕の感覚ではアベール侯爵は実利があれば、裏切る人間ではない。

いろいろと腹黒いが、はっきりとしている人間でもある。


「分かりました。僕はなかなか分からない部分もある話ですが、ジーメンス伯爵家として、侯爵様と共に事業を進めさせてください。」


「ははは、その辺は大船に乗ったつもりでいるが良い。年甲斐もなく、久々にワクワクしておるのだよ。」


アベール侯爵が再び豪快に笑った。

その後も、夜遅くまで悪だくみについての話し合いが行われていった。










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