第20話 馬車の中での悪だくみ
僕達一行はオルロヴァの馬車を伴い、王都へ向かった。
以前向かった時は暗い気持ちで向かったものだが、今回は慶事である。
「ねえフリーデル。今回王都ではどのような手順を踏めばいいのかな?」
僕は対面に座るフリーデルに話しかけた。
「そうですね。事の概略は前にも申し上げましたように既に書状を送っておりますから、状況の把握はしていただいているでしょう。国王陛下にも奏上されているはずです。」
「そう言ってたよね。」
「ですから事務的な作業はほとんどありません。国王陛下へ謁見を願い出て、ディオン様、アイナ様を伴ってご挨拶されれば良いでしょう。全員顔見知りな訳ですからね。」
それもそうである。
ナイザール国王のベルクール3世とオルロヴァのディオンは国家元首同士で以前から知っているはずだし、アイナもこの前の使節団で王都バイゼルに行っているから挨拶をしているはずだ。
「ところでカール様。国王陛下との謁見の日ですが、私は別行動を取りたいと思っております。」
「え、何か用事があるの?」
「はい。実はジーメンス領の今後を見据えて、人の雇い入れを行いたいと考えています。これがその見積もりなのですが…」
フリーデルが僕に一枚の紙を渡してきた。
「えーっと、何々…。鍛冶師、採掘職人、警護の傭兵…。これは?」
「報告が遅くなり申し訳ございません。その資料ですがまだ完成版ではありません。…ジーメンス領では農業は比較的軌道に乗っていてベルントのような者もいるので、このままの方針で良いかと思っています。しかし他の産業を生み出せないか考えた時、私は領内北方の山脈に目を付けました。」
「北の山…?」
「はい。ジーメンス領北方の山脈はかつて火山帯があったようです。火山があったという事は何らかの鉱石が取れる鉱脈がある可能性があります。」
「そのために職人さんとかが必要って事かな。でもその山って勝手に採掘して良いの?」
「調べた限り、そのあたりは間違いなくナイザール王国領なのですが、どの貴族の知行地でもない、つまり無宿地なのですよ。中央から遠い辺境の山岳地を領有したい貴族なぞいませんからね。」
「なるほど。でもそう言うのって王国の直轄領だったりしないのかな?」
「そのあたりはうまくやります。なあに、既成事実を作ってしまえば問題ありません。実はこの話は内々にアベール侯爵には伝えてありましてね。侯爵にも一枚噛んでもらう予定です。…まぁ、悪く言えば悪だくみですね。」
「悪だくみって…」
悪だくみ…。確かにフリーデルは少し悪そうな笑顔を浮かべていた。
「どうでしょう? この件、私にお任せいただけますでしょうか。」
「うーん…」
僕は馬車の天井を見つめた。
この話が成功するのは、うまくいっても恐らく数年後になるだろう。
でも農業だけでは領地経営が心もとないのは確かだ。
しかし、悪だくみとは興味深い。
「残念だけど、それを認めるわけにはいかないな…」
「そ、そうですか…」
「うん。そんな楽しそうな事は僕も混ぜてくれないとダメ!」
「カ、カール様?」
フリーデルが何とも言えない表情を僕に向けてきた。
「
「しかし…」
「“キレイゴト”だけでは政治は出来ないんでしょ? アベール侯爵も関わるなら、面白そうじゃない。」
僕はにんまりと笑いながら答えた。
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