第23話 sideフリーデル-王都の裏路地の先に

私はナイザール王国王都バイゼルの裏路地を行く。

私の名はフリーデル。ナイザール王国現国王ベルクール三世の腹違いの兄にあたるのだが、今の私は王族の立場には無い。


「なぁ、フリーデル。こんな路地をどこまで行くんだよ?」


私に話しかけてきたのは同僚のハンスだ。

今の私はジーメンス伯爵家に家令として仕えている。

隣にいるハンスは警護の兵として仕えている者だ。


「私の目的は話していなかったかな? ハンス。」


「聞いていたよ。今俺達は職人とかを探しているんだろ? てっきり俺はそう言う組合ギルドに向かうのかと思ってたよ。」


組合ギルド、それはそれぞれの分野に特化した集団の事を指す。

冒険者を探したければ冒険者組合ギルド

鍛冶職人を探したければ鍛冶師組合ギルド

等と言った感じだ。

王都バイゼルはナイザール王国の中心地にあるから、そう言った組合ギルドも当然存在する。

だが私が目指しているのはそう言った組合ギルドでは無い。


組合ギルドには行かんよ。確かに組合ギルドで探すのは手っ取り早いのだが、なんだかんだ言って表の組織だ。それでは足がついてしまうだろう?」


「足がついてしまうって…。じゃあ、どこに…?」


「まぁ、すぐに分かるさ。」


私はアベール侯爵から貰った地図を見た。

ふむ、あの角を曲がった先で間違いないな。


「ハンス、あの角を曲がったところだ。何事も無いと思うが、目くらましの準備をしておいてくれ。」


「お、おう…」


念の為、ハンスに注意を促した。

私達は路地の角を曲がり、その先にある小さな格子扉に手を掛けた。


「フム、どちら様かね…?」


扉を入った先にいた男が声を掛けてきた。

口調こそ穏やかではあるが、その目つきは鋭い。


「私はフリーデルと言う者だ。アベール侯爵様の紹介状がある。」


「…紹介状を。」


私はこの男にアベール侯爵から事前に渡されていた書状を差し出した。


「…確かに。少しお待ちください。」


男が部屋の奥に入っていった。


「…おい、ここは何なんだよ?」


ハンスが部屋を見渡しながら言った。


「静かに。」


「おう…」


私はハンスを制した。


「これはこれは、アベール侯爵様からのご紹介だそうで…」


少しして、奥から商人風の男が出てきた。


「おやおや、これは珍しいお客様でありますな。…っと申し遅れました。私はこの紹介を預かるサンドロと申します。お見知りおきを。さ、中にお入りください。」


男はサンドロと名乗った。

私達はサンドロに奥の部屋…、応接間に通された。


「どうぞお掛けください。おいお前、お客様にお茶をお出ししなさい。」


サンドロが近くにいたメイドに命令した。


「さて貴方は…、フリーデル殿下ではありませんか?」


「私を知っていたか。」


「そりゃもう。こう言った家業をやっているとねえ、情報が命なもんで。」


「ならば私が今はジーメンス伯爵家に仕えていることも知っているだろう。」


私の問いに、サンドロが肩をすくめた。

それは愚問だ、とでも言いたいような感じだ。


「失礼致します。」


メイドが私達の前にお茶を持ってきた。

ハンスは飲むのを躊躇っていたが、


「ありがとう。」


私はメイドからお茶を受け取ると、一口お茶を口にした。


「へぇ、貴方なかなか豪胆ですな。…我々を警戒しないのですか?」


「警戒してるさ。だが、私に今ここで何かを盛ったところでお前は何も得をしないだろう?」


「そりゃそうだ。」


サンドロが真面目な顔つきに変わった。


「それで、フリーデル様は当商会うちに何に御用で?」


「うむ。実はな、人を都合してもらいたい。」


「人を…?」


「そうだ。欲しい人材はここに書いてある。」


私は鞄から紙を取り出した。

サンドロは紙を受け取ると、眼鏡の位置を直してからそれを読み始めた。


「なるほど。ちなみにこれは表の家業ですか? それとも裏の…?」


「表だったらわざわざこんな所に来ると思うかね?」


「…思いませんな。侯爵様の紹介状があるくらいだ。ちなみに、貴方の主人殿はこれをご存じで?」


「私の主はまだ子供だからな。“こう言うところ”に来るところまでは承知していない。だが計画については知っていて、お前が人を都合してくれたら隠さず話すつもりだ。」


「…代金のアテは?」


「当家が国王陛下から賜った報奨金がある。足りない場合は、侯爵様が援助してくれる予定だ。」


「なるほど…」


サンドロが私から受け取った紙を折り畳んで懐に入れた。


「畏まりました。ご希望に添えるように動かせていただきましょう。1週間程、お時間を頂きたく。」


「構わない。月内はアベール侯爵様のところに逗留しているから、その間に結果を知らせてくれ。」


「畏まりました。」


サンドロが頷いた。

…さて、計画スタートと言ったところだな。










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