第24話 顔合わせ

数日後、オルロヴァ太守ディオンとアイナはアベール侯爵邸に招かれた。

僕達ジーメンス家一行は宿の代わりとしてここ数日間アベール侯爵邸に逗留していたが、ディオンとアイナは今回の旅で初めてここを訪れていた。


「これはディオン様。よくぞ我が屋敷へいらっしゃいました。」


「うむ、久しぶりだな。アベール侯爵殿。」


アベールとディオンはにこやかな顔で挨拶を交わしていた。

うん、僕は知っている。これは営業スマイルと言うやつだ。


「そちらの令嬢はこの度カール…、ジーメンス伯爵と婚約なされたアイナ様ですな。」


「はい、初めまして。アベールのおじさま。カール君から話は聞かされておりました。」


「ほう、それはどのような話ですかな?」


「はい。家を継いでから良くして頂いて、まるでお父様みたいな方だと。」


アイナの言葉に僕は少し口をひくっとさせた。

アイナー、確かにそんな事言ったことあるけど、それを侯爵様に実際に言っちゃうなんて。


「ほう、それはそれは!」


あれ侯爵、何か喜んでる?


「カール、そんなこと言ってたのだな。儂の事は父上と呼んでも良いのだぞ?」


「こ、侯爵様…!?」


この流れ、何回目ですか…?


「はっはっは! あのアベール殿がこのような事になっているとは、まこと愉快なものよ。獣人族が嫌いでは無かったのかな?」


「そう言われますな、ディオン様。さ、ともかくそちらにお掛けください。」


僕達は応接間のテーブルを囲んで着席した。

アイナは僕の右隣だ。アイナの左手は僕の右手に添えられていた。


「ふむ、カール。仲が良いのう…。ディオン様、この度は真にめでたきことで。」


「そうだな。私もこのような利発な義息子むすこが出来て嬉しい限りよ。」


ディオンの言葉を聞いて僕は顔を赤らめた。

その様子をアイナが微笑みながら見つめてきた。


「儂もカールと交流を持ち始めて色々刺激的な事が多くて楽しませてもらっておりますよ。」


「ほう…、貴殿がか…?」


ディオンの言葉にアベールがニヤリと笑った。


「はい。これからやろうとしている事業も、カールと共にやろうと思っております。」


「ふむ。それは…」


その時扉をノックするとともに、アベールの家令が部屋に入ってきた。

そしてアベールに何やら耳打ちした。


「分かった。お前はそこで少し待て。」


家令が一歩下がった。


「フリーデル殿、来客のようだ。」


アベールが僕の後ろに控えていたフリーデルの方を見た。


「サンドロ商会ですか?」


「その通りだ。」


「承知致しました。準備しましょう。」


フリーデルが一礼して部屋を出て行った。


「よし、お前はサンドロへ階段下へ待つように伝えよ。」


「畏まりました。」


家令が応接間を出て行った。


「ディオン様。取引先の商会の者が来たようなのでカールと共に席を外さねばなりません。」


「それは先程の“事業”とやらに関係あるのかね…?」


「左様で…。ディオン様も話に乗りたいですか?」


僕はチラッとディオンの顔を見た。

これは…、まるで頭の中で何かを計算しているような顔だ。


「まぁ、お父様ったら久々に楽しそうな顔をなさってるわ」


アイナが笑いながら言った。


「楽しそうな顔?」


「ええ。私達の家は前に言ったように元々は商家だから、金勘定してるときが一番生き生きとしてるの。」


なるほど。おそらく損得勘定をしているところだろう。


「良かろう。私も義息子むすこと侯爵殿の事業とやらに乗っかろうじゃないか。詳しく話を聞かせよ。」


少し考えこんでいたディオンが嬉々とした顔で答えた。

ええー、またこの話が大きくなるの?

僕はふうっと息を吐いた。



少しして、僕達はアベール達と共に屋敷の階段の方へ出た。

階段の下には商人風の男が一名、そして他に数名の男女が控えていた。


「これはアベール侯爵様、フリーデル様。この度は我がサンドロ商会をお引き立て頂きありがとうございます。」


一礼したこの商人がサンドロと言うらしい。


「そして、そちらの獣人殿がジーメンス伯爵様ですな。…っと、さらに珍しい方がいらっしゃるようだ。」


「うむ。ディオン様は先程我が屋敷にお招きしたところよ。」


「それはそれは…。ではこの場所で今回の話をして構いませんので?」


「許す。続けよ。」


「畏まりました。では失礼致します。」


サンドロは一礼すると、懐から一枚の紙を取り出した。

何かの明細のようだ。


「これがこの度フリーデル様からご発注頂いた、奴隷の明細でございます。」


サンドロが一歩進み、フリーデルに明細を手渡した。


「奴隷!? フリーデル、奴隷ってどういう事!?」


僕はフリーデルに駆け寄って問いただした。


「カール様、黙っていて申し訳ございません。この度の事業はどうしても秘匿性が問われます。それで今回は奴隷を使役することにしたのです。」


「で、でも…!」


「彼等は奴隷ですから、隷属の首輪を装着しています。しかし彼等には無理はさせませんし、制約も逃亡をしない事・反逆しない事・秘密を口外しない事のみです。ぞんざいな扱いはしませんのでご容赦を…」


僕は唇を噛み締めながら奴隷たちを見た。

奴隷たちの表情は様々だ。

目を閉じ話を聞いている者、視線を落としながら不安そうな顔をしている者…。

種族も人間だけではなく、妖精族エルフ、鬼人、狐や虎の獣人等いろいろいるようだ。


まさか、奴隷を使う事になるなんて…











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