第25話 ジーメンス家の奴隷

その日、ジーメンス家は奴隷を10名抱えることになった。

だが僕はこれに対していくつかの条件を付けることにした。


・奴隷達に与える制約は逃亡しない、反逆しない、秘密を口外しない。

・奴隷達に過酷な労働をさせない。

・奴隷達には余暇や休憩を与え、その時は自由に行動することを許可する。

・奴隷達には制約以外は領民と同様の権利を与える。

・奴隷達には党首との定期的な面談の機会を与え、意見を聴取する。


僕が奴隷達の目の前でこの五か条を宣言した時、その場にはどよめきの声が上がった。


「あの、旦那…になるのかな? よろしいですかい?」


がっちりとした体格の虎獣人が手を上げた。

えーと、まだ名前が分からないな。


「はい、えーと、あなたは…」


「あっしはボリス、です。」


「ボリスさん、どうぞ。」


「はい。あっしは頭が良くねえから良く分からねえんですが、今旦那がおっしゃったことが正しいとすれば、あっしらは本当に奴隷…なんですかい?」


「それは…、どういうことですか?」


「条件が良すぎる気がします。あっしらは色んな理由で奴隷になっちまったんだが、色々と酷使される事を覚悟していました。」


「うーん、そうなの…かな?」


僕は奴隷達を連れて来たサンドロの方を見た。


「あー、一般的にはそういう事もありますね。男には過酷な労働を課されたり、女は性奴隷となってしまうこともあります。ジーメンス伯爵様の様な条件で働ける奴隷は多く無いでしょうな。」


「なるほど。それでも僕はあなた達には不幸せにはなってほしくない。フリーデル、僕はこの条件の下でなら、彼等を迎えよう。」


僕の言葉に、フリーデルが頷いた。


「畏まりました。カール様の出された条件を順守したうえで、彼等には仕事を任せましょう。」


「うん、よろしくね。」



この後少しの間打ち合わせを行った後、僕はフリーデルと共に、奴隷達と面談を行うことになった。


まずは一人目。

先程僕に質問した虎獣人のボリスだ。


「あなたは先程のボリスさんですね。虎の獣人で、力が強そうですね。」


「ああ。あっしは勉強は出来ねえが腕っぷしには自信がありますよ。」


ボリスが力こぶを作った。


「彼には北の山の調査、発掘作業をやってもらおうと考えております。」


フリーデルが補足説明を行った。

確かに虎獣人のボリスにはぴったりの役目だろう。


その後に入ってきた二人目、三人目の熊獣人の兄弟・ボフスラフとボレスラフも先程のボリスと同じ仕事に従事してもらうことにした。

この二人は双子のようだから、ちょっと見分けるのに苦戦しそうだな…。


四人目は人族の男・エミールだ。

まだ若そうな感じではあるが、手に見えるタコ等を見るとまさに職人と言った感じだ。


「エミールは鍛冶師です。彼には事業に必要な道具を作る工房を担当してもらいます。いずれは領民の中から職人育成もしてもらおうと考えています。」


フリーデルが紹介してくれた。


「エミールと申します。俺の親父も鍛冶師でしたが悪徳商人に騙され借金苦で自殺してしまいました。俺も借金奴隷に落とされてしまったのですが、この度は寛容な家に迎えていただいて感謝しています。」


「うん、よろしくお願いします。実は最近鉄鉱石を大量に仕入れています。何か必要な事があれば言ってくださいね。」


五人目、六人目、七人目、八人目も人族だ。

名前はビリー、トリスタン、ヴィクトル、この中では紅一点のアメリア。

彼等は元々冒険者で、チームであったようだ。


「俺達に任される仕事は…護衛ですか?」


この中でのリーダー格であるビリーがフリーデルに問い掛けた。


「そうだ。調査、発掘チームの護衛を頼みたいと思っている。」


「えっと、ビリーさん達はチームなんですよね。チームワークに期待をしています。」


僕は彼等ににこっと笑い掛けた。


「は! お任せください。」


ビリー達が一礼した。

その中、チームの紅一点のアメリアが僕の尻尾をじっと見ていた。

これは…、アイナが僕の尻尾をモフモフしたがる時と同じ目だ。

それは勘弁してもらいたい…。


次に九人目で入ってきたのは妖精族エルフの少女マリーナだ。

少女と言っても妖精族エルフは長命だから、僕よりもフリーデルよりも年上なのだろう。


「マリーナには私の補佐を務めさせます。分野が広がってきましたので私の仕事の一部を任せようと考えています。」


「マリーナです。私は武力は持ちませんが算術やいくつかの言語を習得しています。」


「なるほど。マリーナさん、是非フリーデルを助けてあげてくださいね。」


僕の言葉に、マリーナは優雅に一礼して部屋を退出していった。

やはり妖精族エルフは気品があるもんだな。


最後、十人目に入ってきたのは青白い顔色、紫色の髪の毛の少女だった。

どうにも人族には見えないな。


「えーっと、あなたの名前は…」


「わたし、ラリサ…」


なるほど、ラリサと言うのか。


「フリーデル、彼女は…?」


「ラリサはカール様とアイナ様の護衛として仕えさせます。当家にはハンス達兵士がおりますが、領地を守る兵でもありますので、今後の事業を進めていくにあたり念の為護衛を付けるべきと判断しました。種族は、おそらくですが、魔族であろうかと…」


魔族…!? 確かにラリサは一件だいぶ慎ましい双丘を持つ少女に見えるが、その雰囲気はただならない感じがする。


「ラリサさん、あなたは魔族なんですか?」


僕はラリサに問い掛けた。


「ラリサ、で良い。うん、私魔族。私、結構、強いよ?」


「えっと、そうなんだ。僕とアイナを守ってくれる?」


「うん、わたし、カール…様とアイナ…様を守るよ。任せて。」


ラリサは表情を変えずに答えた。

整った表情で可愛らしい顔をしているのだが、無表情なんだな。


僕やアイナと仲良くしていければいいけど…。










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