第26話 sideラリサ-仕掛け人の過去
※このエピソードは少し残酷な表現を含みます。ご了承ください。
わたしはここで何をしているんだろう。
わたしはここで何のために存在しているんだろう。
わたしは…
闇の中で自答する。
わたしには家族などいない。
そう思っていた。
そしてわたしにはいつも通りの、繰り返しの朝を迎えるんだ。
わたしの名前はラリサ。魔族のラリサ。
わたしには本当の名前…、真名がある。
でもそれは当の昔に名乗ることを忘れてしまった。
「おい、出ろ。ぐずぐずするな。」
「んぐ…」
わたしの首に嵌められた首輪が、わたしの首を絞めた。
鉄格子を開けて入ってきた男に、強引に繋がっていた鎖を引っ張られたのだ。
「さっさと出ろよ。今日のターゲットを教えるんだからな。」
目の前の男が
そうだ、今日もわたしは誰かを殺しに行くんだ。
「今日のターゲットはこいつだ。」
見せられた紙には、一人の男の似顔絵と名前が書かれていた。
「こいつはナイザールの国王、ベルクール三世だ。お前にとって最も難しい
「・・・」
わたしは表情を変えなかった。
どのみち、わたしはこの
「他の殺し屋も何人か来るようだが、何とかお前がベルクール三世の命を
目の前の男は本当に下品だ。
わたしの祖先は、それなりに高貴な魔族であったらしい
しかしわたしはある日、こいつに罠に嵌められた。
隷属の首輪を嵌められ、わたしの純潔も奪われた。
わたしはこの男を、恨んでいるはずだ。
でも生きるために、わたしは
こいつと媾ううちに、わたしは急速に感情を失っていったんだ。
そしてわたしの感情が失われた頃、こいつはわたしをもてあそぶのをやめた。
その代わり、わたしの
「け、相変わらずつまらねえなお前は。さっさと行け!」
男はわたしの相手にするのに飽きたらしい。
追い立てるようにわたしを屋敷から追い出した。
「・・・」
何をすればいいか、それはわたしの体が分かっている。
懐にある
そこで他の仕掛け人の香具師が準備した殺し屋数名と合流した。
皆、
そしてその日、わたしたちはナイザール王国の王城へ潜入した。
城内にはそれぞれの仕掛け人が、各々の方法で潜入した。
わたしは貴族の使用人に化け、そこへ向かった。
幻術も使えばそれは問題無い、筈だった。
そして、そこにたどり着けたのはわたしを含め3名だった。
他の者たちはどこかで死んでしまったか、脱落したのかもしれない。
もっとも、それは彼等の役目でもある。
王達を孤立させるための作戦だ。
それで死んだのであれば、それは仕方のない事だ。
「行くぞ!」
わたしたちは各々の得物を取り出し、
敵は王と、壮年の貴族だ。わずか二人、楽勝なはずだった。
しかし、王の近くの貴族の男は強かった。
最初に斬りかかった殺し屋の防ぎ弾き飛ばした後、一刀のもと斬り伏せた。
「何、馬鹿な…!?」
もう一人が狼狽えた。
その隙を突くかの様に接近し、仕掛け人の左腕を奪う。
「ぐぎゃああああああ! おい、女! 何をしている!? お前も戦わねえか!」
むろんわたしはそのつもりだ。
わたしは暗器を数本投げつけた。それはきっと、防がれるだろう。
キン!!! キィィン!
案の定、初手の攻撃が防がれた。想定通りだ。
わたしは右手で背中の刀を抜いた。
カン、キィィ!
あれ、それなりに速く剣を振るっているつもりなんだけどな。
この人はこれも防ぐのか。
わたしは左手を思いっきり伸ばした。
左の袖にはナイフが仕込んである。それで
「ぐふ…!」
わたしのナイフが貴族の男の腹をとらえた。
屈強な男にとって致命傷では無いだろうが、それなりにダメージを与えた筈だ。
「…むう!」
貴族が強引にわたしの体を突き飛ばした。
刺されたのにここまでの力が出るのか。この貴族は本当に強い。
「く…へっへ、貰ったぜ。」
先程左腕を失った仕掛け人が残された右手に握った武器で貴族を攻撃した。
ガキィィィィ!!!!
わたしは目を見開いた。
貴族はその武器毎、大剣で仕掛け人を両断したのだ。
しかし傷の痛みに力が抜けたのか、グラっと体勢を崩し大剣を落とした。
ここだ、ここしかない。
この貴族を倒すには、隙を突くしかない。
時間を掛けてしまえば、王城の兵達が駆け付けてしまうだろう。
「・・・!」
わたしは一気に間を詰め、右手の刀を振り落とした。
「ぐっ…!」
「っ…!」
わたしの腹部に痛みが走った。
わたしの刀は、貴族をとらえた筈だ。
これはいったい…?
わたしは自分の腹を見た。
そうか、これはわたしのナイフだ。
貴族の男は、自分に刺さったナイフを抜き、わたしに突き刺したのだ。
わたしの体から、急速に力が抜けていった。
これは、良くない傷だな。
わたしの、命もここまでか…
「ああ…、もうすこし、たのしく生きたかったな。」
わたしはそう呟き、その場に崩れ落ちた。
――――
「ん・・・!」
わたしは目を覚まし、周りを見渡した。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
目の前にいたのは、狸獣人の少年だ。
「あ、カール様、わたし寝ちゃってた。護衛なのに、ごめんなさい。」
ここはいつもの繰り返しの、朝では無い。
奴隷と言う立場は変わらないが、目の前の主人はわたしをぞんざいに扱ったりはしない。
「あ、大丈夫だよ。護衛の君が寝られるってことは、ここは安全なんでしょ? 危なかったらそういうの感じられるんでしょ?」
少年はわたしににっこりと笑いかけてきた。
「うん、そうだね。少なくとも、感じられる範囲に、敵意は無いよ。」
「ならゆっくり寝ててよかったのに。」
「そうはいかない、わたし、仕事をしないと。」
わたしは体を起こそうとした。
「だーめ。いつも護衛として神経を使ってるんだから、こういう時にはゆっくりしててよ。ね?」
少年の手がわたしの頬に触れた。
暖かい…
「で、でも…」
「うーん、そうだな。じゃあ、君の主人として命じます。ラリサ、君は今日は休みを取る事! いいね?」
「はい…」
「あ…!」
少年が少しびっくりしたような表情になった。
「なん・・・ですか? カール様。」
「ラリサが少し笑ってくれた! 何か嬉しいな。」
少年が、嬉しそうな表情に変わった。
笑った…? わたしが…?
いや、そうかもしれない。わたしの心が、温かくなっているのを感じているのだから。
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