第27話 鍛冶師エミール
王都での要件を済ませ、僕達はジーメンス領へ帰郷した。
オルロヴァ太守ディオンはジーメンス領に3日程滞在した後、自分の国へと帰国していった。
「カールよ、美味しい話には我が国も一枚噛みたいところだから何かあったら遠慮なく知らせるように!」
ディオンは明らかな商売人の顔でそう言い残していった。
その時ディオンの事を良く知るアイナなにこやかな表情で見つめていたが、僕は内心ではハラハラだ。
しかし動き始めてしまったのだから仕方ない。
まずは出来る事を始めて行こう。
「細かいところは…フリーデルに任せるとして…」
僕はアベール侯爵やフリーデル達と打ち合わせた企画書を見た。
まずは調査隊を結成して北の山脈を調べる…、これはフリーデルが虎獣人のボリスや冒険者のチームを引き連れて行う予定だ。
並行して僕が出来る事、それは調査・発掘に仕える道具を、鍛冶師のエミールに製作してもらう事だ。まずはエミールの様子を見に行くか。
「よし…っと。」
僕は椅子から立ち上がった。
それを執務室の隅に控えていたラリサが僕の近くに寄ってきた。
「カール様、どこか、行く?」
「ああ、ラリサ。ちょっとエミールのところに行こうと思ってるんだ。」
「エミー…ル?」
ラリサが首を傾げた。
「え、まさか覚えてないの?」
「うー…ん、わたし、カール様と、アイナ様…と、あとフリーデル?様しか覚えてない。」
「そ、そう…」
うーん、この子の思考回路はちょっと独特なのかな。
「エミールはね、鍛冶師なんだ。鍛冶師と言うのはね、色々な道具や武器を作ってくれる人なんだよ。」
「武器!?」
ラリサが突然目を輝かせた。
護衛だからなのか、武器が好きなんだろうか?
「さ、さて、とりあえず行くよ。そう言えばアイナはどこに行ったのかな?」
「アイナ様は、たしか、台所に行ったよ。あのメイドさん…、うー、名前分かんないけど、一緒にご飯作るんだって、言ってた。」
「そっか、じゃあ僕達だけで行こう。」
「うん、行く。」
僕とラリサは執務室を出て研究棟の隣に増設された鍛冶場に向かった。
この鍛冶場は例のごとく、アベール侯爵の手配で建設された。
あの人の凄いところは、僕が王都での用事を済ませている間に大工を先に派遣していて、帰った頃には既にある程度施設が出来上がっていたところだ。
…まったく、帰った時本当に驚いたよ…
「エミール、入るよ。」
僕は鍛冶場に入った。
「あ、カール様いらっしゃい!」
エミールが額の汗をぬぐいながら出迎えた。
既にいくつか採掘の為の道具を打っていたようで、鍛冶場の中はかなりの高温になっていた。
「すみません、作業中はかなり暑くなるものですから。」
「いや、大丈夫だよ。…あれが製作したものかな?」
僕が指さした先にはつるはし等の土木工具が何本か置かれていた。
「はい。カール様が王都から持って来てくださった鉄鉱石ですがなかなか質が良くて、鉄の割合が多かったですね。数を揃えるのは大変ですが、中々良い道具を作れています。」
「それは良い事だね。フリーデルがオーダーした数の道具を作った段階で、何人か領民を連れてきて指導を頼みたいんだけど大丈夫かな?」
「はい、お任せください。」
エミールがにこやかに答えた。
「ねえ、あなた。」
その時突然ラリサがスタスタとエミールに近付いた。
「えっと何かな? 君は確かラリサ、だったかな。」
「カール様に聞いた。あなた、エミール? 鍛冶師?」
「そ、そうだけど…?」
エミールが戸惑いながら答えた。
「あなた、鍛冶師、武器、作れるの?」
「武器、ああ、剣とかそう言うのなら作れるよ。一流の鍛冶師程凄いものを作れるかは分からないけどな。」
「あなた、わたしの武器、作って?」
「え、ええっと。カール様?」
エミールが助けを求めるような視線を僕に向けた。
「あーっと、ラリサは僕とアイナの護衛だから武器が欲しいみたいなんだ。合間にお願いできるかな。」
「そういう事であれば…。ラリサはどんな武器が欲しいんだ?」
「わたし、刀、欲しい。あと…」
口調こそ変わらないものの、ラリサは自分自身が欲しい武器についてエミールと語り合った。
うーん、僕は武器についてはまったく分からないから、話に入れないな。
きっかけはどうであれ、ラリサが楽しそうに話をしているんだから、まあいいか。
僕はそっとその場を離れた。
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