第28話 side冒険者チーム-新天地

俺達は冒険者パーティ「曇天」。

草原の国、ラーストチカ王国の冒険者ギルドを拠点としたチーム…だった。


俺達は自分で言うのも何だが、バランスの良いチームだと思っていた。

リーダーは俺、ビリー。 剣士をやっている。

巨漢のヴィクトルは斧戦士で更に大きな盾を装備し、役割は盾役タンクだ。

弓士のトリスタンは後衛からの遠距離攻撃を担当。

そしてアメリアは攻撃魔法も回復魔法も使える万能の魔導士だ。


俺達はチームとして冒険者ランクはBランクだったが、この後も依頼をこなしていけばAランクも狙える、そう思っていた。


その日、俺達はラーストチカの冒険者ギルドに寄った後、数日前に受けた依頼の目的地へ向かっていた。

その依頼はとある商家の隊商キャラバンの護衛だ。

依頼主はラーストチカの王都から離れた地方都市の豪商で、拠点とする都市から別の町への護衛を依頼されていたのだ。

それは順調に行けば一週間くらいで完了するようなものだった。


「ビリー、今回の依頼は内容にしてはえらく報酬が良い気がしないか?」


トリスタンが依頼が書かれた紙を見ながら言った。


「ああ、そうだな。でも依頼としては不審なところも無いし、依頼主の商家も確かなところだよ。」


そう、この依頼は全く不審なところが無かった。

依頼の紙には商家の押印もあり、この商家自体もラーストチカでは名の知られた家だった。

不安が無かったわけでは無いが、Bランクの俺達にはさほど問題無い。

そう思っていたのだ。


「よし、今日はあの丘の上で休息しよう。いつも通り頼む。」


「いや待て。あそこに廃屋のようなものが見えるぞ。あれは使えないか?」


ヴィクトルが指さした先には確かに数件の廃屋があるようだった。

もしかしたら損傷の少ない建物があるかもしれない。


「そうだな。行ってみよう。」


俺達はその廃屋を目指した。

そして数件の廃屋を見回り、崩壊が少なくしっかりとした建物を見つけ、そこを本日の宿とすることにした。


「えー、ここに泊まるの? ちょっと臭くない?」


アメリアが少し不服そうな表情を浮かべた。


「でも外で野宿するよりはマシだろう。」


「うーん、そうね…。」


「よし、最初は俺が見張りに立とう。食事の後、お前達は先に休んでいてくれ。」


輪番で見張りに立つ。俺達の決まりだ。

平等に役割を果たすことが、チームの和に繋がるのだ。

俺は仲間達が眠りにつくのを確認し、外套を被って建物の外へ出た。

これはいつもの事で、それほど特別なことは起こらない。

そう思っていた。


2時間程経過しただろうか、俺はいつもと違う感じを覚えた。

何だろう、視線?

しかしその方向には誰もいない。

嫌な予感がする。まずは仲間を起こそう。

俺は振り返って建物の方へ走ろうとした。


「…ぐ!?」


背中から何か、鈍い衝撃の様なものを感じた。

自らの腹を見ると、どうやら俺は鋭い棒状のものを突き刺されたようだ。

何故、気付かなかった?

いや、まずはそんなことはどうでもいい。

俺はそのまま建物へと走った。


「お、おい。敵だ、起きろ…!」


建物の中へ入り、俺は精一杯の声で叫んだ。

仲間達は俺の声を聞いて各々立ち上がろうとした。


「キャァァァ!」


アメリアが俺の怪我を見て叫んだ。


「お前たちは逃げろ…! 俺は…!」


そこまで言ったところで、俺は首筋へ冷たいものが突き付けられたのを感じた。


「っと、そこまでだ。動くなよ。」


後ろにいた黒い装束の人間が、俺に刃物を突き付けていた。


「良いか、お前達。この男の生死は、お前達が大人しく付いてくるかに掛かっているのだ。」


「ぐ、くそ…」


仲間達が苦渋の表情を浮かべた。


「お、お前…。誰だか分からないが、俺の仲間は見逃してくれ…」


俺はそう言いながら後ろの男を見ようとした。


「フン、死にぞこないは黙っているのだな。」


そう言われた瞬間、俺の意識はそこで途切れた。



―――



次に目を覚ました時、俺は牢の中にいた。

同じ牢には、仲間達もいるようだ。


「ビリー! 目を覚ましたのね! 良かった…」


アメリアが俺の横で涙を流しながら言った。


「お前らは、怪我は無いのか…? …っ!」


俺は腹部に痛みを感じた。包帯が巻かれているという事は、怪我の治療はされているようだ。


「オレ達は大丈夫だ。お前が一番怪我が重いんだから、まずはそこで寝ていてくれ。」


「ああ…。だが、ここはどこなんだ…?」


その場ではすぐその答えは出なかった。

後で聞いたのだが、俺達を襲ったのは所謂「人狩り」と言う集団らしい。

「人狩り」達はエサに食いついた人々を捕らえ、奴隷商へ売っているらしい。

今回、俺達はそのエサに食いついてしまったのだ。


「なぁ、俺達どうなるのかな…?」


どうなる? それは誰にも分からない。

隷属の首輪を嵌められた俺達は、どこにも逃げられないからだ。

俺達は売られ、誰かに買われるのを待つしかない。

俺達はきっと、バラバラになってしまうだろう。


そして、俺達は買われた。

幸運にも、誰一人欠けることなく。それは奇跡だった。


「えっと、ビリーさん達はチームなんですよね。チームワークに期待をしています。」


目の前にいる新しい主人は、俺よりも年下であろう、狸獣人だった。

俺達は冒険者ではなくなってしまったが、この主人は俺達を大切にしてくれそうだ。


仲間達と一緒にいられることに感謝し、新しい仕事に向かっていく事にしよう。












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