第29話 3人でお出かけ

ある朝、僕は目を覚ました。

隣を見るとアイナがまだ心地よさそうに寝息を立てていた。


(今日はお休みの日だし、まだ起こさない方が良いよね)


僕は音を立てないようにベッドから降りた。

今日は特に執務も無いし、最低限の人員以外には休むように指示を出していた。

食事に関しては取らない訳にはいかないから、今日は当番のメイドがいる筈だ。

少し小腹が空いたから、何か食べ物を貰いに行こうかな。


僕はそっと部屋を出た。


「カール様、おはよう。」


部屋の外には護衛をラリサが控えていた。

昨日のミーティングでは休むように言っていた筈だけど、今日も護衛任務を行っていたのか。


「おはよう、ラリサ。今日は休んでいていいって言っていた筈だけど。」


「うん。でも、わたし、お休みと言われても、何もやることが無いから…」


ラリサが戸惑ったような表情で答えた。

ふーむ。僕はラリサの過去について何も聞いたことが無いので知らなかったが、どうやらこの屋敷に来る前はあまりいい扱いをされていなかったのかもしれない。


「うーん、そうだなぁ。じゃあ、今日は少しお出かけしようか?」


「おでかけ?」


「あとでアイナを起こしてくるから、3人で一緒に市場の方に行こう。ジーメンス領には大きな町は無いけど、市場に行けば色々なものが売っていて楽しいかもしれないよ。」


「それ、わたし、護衛おしごとできる?」


うーん、この子の頭の中は仕事しかないのかな?

この前もなかなか休んでくれなかったし…


「あ、ああ。そうだね。君は僕の護衛だから、一緒に来るのがお仕事だね。」


仕事という体で連れ出すしかないかな。

まぁラリサの事を知るという意味でも、余暇を兼ねたお出かけと言うのも良いかもしれない。


「分かった。わたしも、出かける準備してくる。」


「あ、ちょっと待って!」


僕はラリサを呼び止めた。




――――




1時間後、僕は屋敷の玄関でアイナとラリサを待っていた。

お出かけの準備はアイナに頼んでおいたから、おそらくもう少しで来てくれることだろう。


「カール君、お待たせー!」


アイナの元気のいい声が聞こえてきた。

アイナの服装はとても可愛らしい。花柄のワンピース着て帽子をかぶった姿は実に春らしい。


「ほら、ラリサも早く来なよ。」


「あ、あうう…」


ラリサがアイナの後ろから青白いはずの顔をほんのり赤くさせながら歩いてきた。

ラリサは、アイナと色違いのワンピースを着ていた。

ラリサの顔立ちは整っているから、おしゃれをするとかなり映えるようだ。

残念ながらワンピースを着ながらも、紐で刀が納まった鞘をぶら下げている若干珍妙な恰好ではあるが…。


「カール君、ラリサ、どう? 良く似合って可愛いよね。」


「そうだね。とても良く似合ってるよ。」


アイナとラリサは背格好がほとんど変わらないので洋服をシェア出来るな。

いつも暗殺者みたいな格好だから、少しはおしゃれを楽しんでもらった方が良さそうだ。


「でも、わたしには、こういうのはちょっと…」


ラリサの顔がどんどん赤くなってきた。

あまり冷やかすとゆでだこみたいになってしまうかもしれないから、とにかく出かけよう。


「よ、よし。とにかく出かけよう。市場までは歩いてでも行けるから、せっかくだから散歩しながら行こうよ。」


僕達はそう言いながら屋敷を出た。














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