第30話 市場でお買い物

30分程歩いて、僕達は屋敷から下った先にあるジーメンス領の市場に到着した。

市場と言っても小規模な領地のものであるから都会のそれほど大きくなく、数件の露店と商店が立ち並ぶ程度のものだ。


「おや、カールちゃん。お買い物に来たのかい?」


露店のおばちゃんが僕に話しかけてきた。


「うん。今日は屋敷の人間に休みを取らせてるし僕の公務も無いから、アイナとラリサと一緒に散歩しようと思って。」


「ねね、おばさま! それは何ですか?」


「あんたは確かカールちゃんの婚約者のアイナちゃんだったっけ?」


「そうです! おばさま! そちらで焼いているのは焼き鳥ですか?」


アイナが露店のおばちゃんにグイグイと詰め寄りながら問い掛けた。


「ああ。これは焼き鳥なんだけど、そりって言う部分だよ。」


「そり? 聞いたこと無いなぁ…」


「鶏のモモの近くの部分だけど、貴重なのさ。食べてみるかい?」


「食べたい!!!」


アイナの顔がぱぁーっと明るくなった。


「おばちゃん。じゃあ3本くれるかな。お金は…」


僕は肩掛けカバンから財布を取り出した。


「あーいいよ、カールちゃん。あたしのサービスだ。」


おばちゃんがニコニコしながら焼き鳥を手渡してきた。


「そう? ありがとう。」


僕は焼き鳥を受け取ると、まず1本をアイナに手渡した。

アイナは嬉しそうに焼き鳥を頬張った。


「はい、ラリサも食べるでしょ。」


「でも、わたしは…」


「せっかく貰ったんだから食べなよ。」


「う、うん…」


ラリサは僕から焼き鳥を受け取るとちょびちょびっと食べ始めた。


「おい…しい…」


「そうかい? あんたたちみたいな子供達が喜んでくれて、あたしは嬉しいよ。」


おばちゃんが満足そうにうなずいた。


「ありがとう、おばちゃん。じゃあ僕達は行くね。」


「ああ、また遊びに来な。」


僕達はおばちゃんに手を振るとその場を離れた。

さて、次は…っと。そうだあのお店に行こう。


「次はあのお店に行こう。」


僕達は先程の露店から数件先のお店を訪れた。

そこは僕が子供のころからいろいろ世話になっている雑貨店で、実用品から装飾品まで手広く手掛けているお店だ。


「こんにちは。」


僕は二人を連れて店内に入った。


「これはカールぼっちゃま、アイナ様、いらっしゃい。」


黒ぶち眼鏡の女性、店主のクリスチーナが笑顔で出迎えてくれた。


「えーっ、それと、そちらの子は…?」


「僕とアイナの警護役をしてくれているラリサって言うんだ。」


僕はクリスチーナへラリサを紹介した。


「ラリサ…、です。よろしく。」


ラリサがぺこりと頭を下げた。


「ラリサちゃんね。ぱっと見可愛い子だけど、警護役なのね。…それでカールぼっちゃま。今日はどんなものがご入用かしら?」


「えーっと今日は…」


僕はクリスチーナにいつも定期的に購入しているもののリストを手渡した。

文具など、公務で使うものが書かれているリストだ。


「畏まりました。このリストのものは、そうね、明後日くらいには揃えられるわ。」


「うん、代金はいつも通りメアリーに渡しておくから受け取ってね。ああ、それと。」


僕はアイナとラリサのほうを見た。

アイナはニコニコと笑顔を浮かべているが、ラリサはキョトンとした感じだ。


「アイナと、ラリサに似合うようなアクセサリーはあるかな?」


「あら、プレゼント?」


「うん。僕はちょっとそう言ったのを選ぶセンスが無いから、クリスチーナさんが選んでくれないかな。」


「ちょっと、待って。プレゼントって、どういう事?」


ラリサが僕の袖を引っ張った。


「え? いつもバッチリ護衛してくれてる御礼と思って。」


「そうじゃない、あなた、貴族。わたし、奴隷。貴族が奴隷に、プレゼントとか、ダメだよ。」


「え、そうなの? アイナどう思う?」


「んー、あまり無い事だとは思うけど、私は良いと思うよ。私もラリサには可愛いアクセサリーとか着けてもらいたいし。」


「で、でも…」


ラリサがもじもじし始めた。


「アイナも良いと言ってるから大丈夫だよ。クリスチーナさん、お願いね。」


「うふふ、任せて。カールぼっちゃま。私がぴったりなアクセサリーを選んであげるわ。」


クリスチーナが黒ぶち眼鏡をクイっと持ち上げながら答えた。







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