第31話 調査へ出発

1カ月ほどの準備期間を終え、僕達は北の山脈の調査に乗り出した。

初回の調査はまず山の麓周辺の調査をし、橋頭堡となる拠点の設営場所を選ぶことだ。北の山脈は王国の地図で見る限りは人の手がほとんど入っていないように思われるからだ。今回の調査には僕も同行することにした。

僕とフリーデル以外には護衛のラリサ、ビリー達元冒険者チーム、虎獣人ボリスが帯同していた。


「本当に地図にも記されていないんだね…」


僕は馬車の中で地図を広げた。


「ええ。まさに未開の地と言えるでしょう。」


対面に座っていたフリーデルが答えた。


「この印は何かな?」


「これは遺跡…の様ですね。ここが記録に残る、北の山脈に一番近い文明の跡と言えるでしょう。」


「とりあえず今回はまずここを目指すのかな?」


「はい。しかしこの遺跡は相当古いもの様ですから、どうなっているかはまったく分かりません。魔物が巣くっている可能性もありますね。」


魔物…、この世界には魔物が存在する。

もっともジーメンス領の近傍にはそういったものはあまりいないのだが、各国の軍隊や冒険者が定期的に魔物狩りを行っているほどだ。


「ここに建築物があれば、当面の拠点にできるかな?」


「どうでしょうね。確かに目印にはできるでしょうが我々以外がもし調査に来た時まずここを目指すでしょうから、拠点としては不向きかもしれません。」


なるほど。

もし冒険者等が未開の地を目指すとすれば僕達と同じ発想でいれば、かつての人工建造物を目指すだろう。

ここを拠点にしてたら僕達が『何かしている』ことに感づいてしまうかもしれない。

であれば一先ず目標にするのは良いが、この近傍に拠点を設営しない方が良いだろう。


その日の夕方、僕達はまず第1の目的地としていた遺跡に到着した。

フリーデルが言った通りこの遺跡はかなり古いものらしく、石造りの建造物はほとんどが倒壊し、建物の体をなしているものは存在しなかった。


「静かだね…。何もいないのかな?」


「カール様、まだ馬車の側でお待ちください。念の為周囲を見回って参ります。…ラリサ、カール様を頼むぞ。」


「うん、まかせて。」


いつもの黒い色の装束を着たラリサが頷いた。

最近では屋敷にいるときはアイナのワンピース等を着てくれるようになったが、やはりこの衣装が気合が入るらしい。


フリーデルが冒険者チームを連れて馬車を離れていった。

僕は戦いに関しては何もできないからこういう時はもどかしい。


「ラリサ、そのうち僕も戦う技術を学んだ方が良いのかな? 剣とか魔法とか。」


「必要ない。わたしがいるから。」


「でもみんなに頼ってばかりでは…」


僕の言葉を受け、ラリサがじとっとした目で僕を見てきた。


「カール様、あなた、そういう才能あるの?」


「うーん、義父上ちちうえからちょっと剣を学んだことはあったけど…」


その時は義父上ちちうえから、お前に剣は向いてないなって言われたような…


「剣とか…ちょっとダメみたい。」


「あと、カール様、あなたからあまり魔力を感じない。だからあまり無駄なことをしないほうがいい。」


「む、無駄って…。そこまで言う!?」


ガーーーーーーン!!!

この擬音語がまさに当てはまるほどの衝撃発言だ。

ラリサは思ったことをズバズバ言うのが良いところでもあるのだが…


「感じたことを、言っただけ。さっきも言ったけど、あなたは、わたしが守るから問題ない。」


ラリサが表情を変えずに続けた。

とほほ…。分かってはいたけど、ズバリ言われるとショックだな…。


30分ほどしてフリーデル達が帰ってきた。


「カール様。周囲には魔物やその他、危険なものはいないようでした。本日はこの周辺にテントを設営しますので、今しばらくお待ちください。」


「あ、待って。それは僕にも手伝わせてよ。」


「いや、しかし…」


「僕だけお荷物なのは嫌なんだ。出来る事だけで良いから手伝わせてよ。」


「…分かりました。ではボリスの手伝いをお願いします。」


「うん、それじゃ行くね!」


僕はぴょんと馬車を飛び降りた。








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