第11話 久々の散歩

僕がジーメンス伯爵家の家督を継いでから4カ月が経った。

この4カ月は実に濃密なものだった。

フリーデルの指導の下、ジーメンス領の農地では麦/稲の二毛作を開始した。

領民の農家の中では最初のうち戸惑いが広がったがフリーデルが熱心な指導を行い、二毛作に成功。

豊かな実りが得られ、水田はまるで黄金色の海の様に稲穂が揺れていた。

今後は新たな畑を開墾し、ジャガイモの栽培に挑戦する予定である。


「カール様、おはようございます。少しよろしいですか?」


医師のアデリナが話しかけてきた。


「アデリナ先生、おはようございます。何かありましたか?」


「はい。御母堂様ですが本日かなり体調が良いようで、久々にカール様と散歩されたいと仰っています。」


アデリナはとても良くやってくれている。

そのお陰もあって義母ははのクラウディアは徐々に体調を回復していった。

子の僕としてはとても嬉しい。


義母上ははうえが? それはもう大丈夫ですか?」


「はい。薬もかなり効いてきていますので、これからは体力の回復をしていく時期でしょう。まだ屋敷の周りのみにした方が良いですが、1週間に2日くらいそのような日を設けましょう。」


「ありがとうございます。今日は義母上ははうえをお連れしても?」


「大丈夫ですよ。私も付き添いますので。」


さっそく、僕は義母ははを寝室まで迎えに行った。

義母はははもう準備万端整えていていつもの寝間着では無く、かつて僕と良く領内を散歩したときに着ていたワンピース姿だった。


「は、義母上ははうえ!? 気合が入っていますね!?」


僕は目をぱちくりさせた。


「当り前じゃない! 愛するカールと久しぶりの散歩なのよ!」


義母はははもうニコニコだ。

僕は嬉しそうな義母ははの手を取り、ゆっくりと屋敷の外へ歩を進めた。


「これは御母堂様、カール様とお散歩ですか。」


屋敷の出口に差し掛かった時、フリーデルが話しかけてきた。

フリーデルは手に書類を持っていることから、今も忙しく働いていたのだろう。

この人はいつ休んでいるのかな?


「あら、フリーデル。いつもカールを助けてくれてありがとう。そうなの、久々にカールと屋敷の周りを散歩するのよ。あなたも一緒に来ない?」


「よろしいのですか? せっかくの親子の時間でありましょうに。」


「良いのよ。ねえ、カール?」


「もちろんです。フリーデル、少しは仕事の手を止めて、一緒に歩こう。」


「分かりました。では、ご一緒します。」


フリーデルを加えた僕達は屋敷を出て、領地が良く見える場所にやってきた。

ジーメンス伯爵家の屋敷は小高い丘にあるので、この場所に来れば良く領地を見渡せるのだ。


「綺麗ね…。あの人も、ここから領地を見るのが好きだったわ。」


義母ははは黄金色に輝く一面の稲穂を見て感嘆の声を出した。


義母上ははうえ、あれが今年になって初めて始めた稲の水田です。全てはフリーデルのお陰です。今年の冬は十分な蓄えが出来そうですよ。」


「そうなのね。うちの領地だと米は買ってくるしか無かったけど…。凄いわね、フリーデル。」


「もったいないお言葉です。」


フリーデルが一礼した。


「カール様!」


メアリーが2階の窓から声を掛けてきた。


「どうしたの? メアリー。」


「先程伝書鳩でお手紙が届いてましたよ。今お持ちしますね。」


少ししてメアリーが小走りでこちらにやってきた。


「あちゃ、これはアベール侯爵様からだ。」


僕は封筒の印を見て自分の頭を叩いた。


「あら、あなたあのアベール侯爵と手紙のやり取りをしていたの?」


義母ははは意外そうな表情を浮かべた。

義母はははずいぶん床に伏せっていたので知らないのは無理もない。


「はい。実は義父上ちちうえの働きへの恩賞について随分骨を折っていただいたのがアベール侯爵様なんです。僕が帰郷してからお手紙を送ってこられるようになったんですよ。」


僕はあのアベール侯爵がここまで筆まめだとは思ってもいなかった。

手紙の内容は些細なものからそうでないものまで色々だったが、ちょっと返信の間が空てしまうと大丈夫なのか? 何か心配事があるのか? 等という手紙が来るのだ。

(言葉は悪いが、あの侯爵様は暇なんじゃないかとも思ってしまったこともあった。)


「ちょっと手紙を確認します。なになに…、ってこれは!?」


僕は手紙の内容に驚きの声を上げた。







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