第10話 領地巡回
僕とフリーデルは一頭の馬に乗り館を出発した。
僕は乗馬が出来ないから、馬を操るのはフリーデルだ。
「こうしていると、弟と遠乗りに出たのを思い出しますね。」
「国王陛下と…?」
「ええ。弟…、国王陛下が小さいころ良くせがまれましてね。何回かこうして遠乗りに出かけたものです。その度に弟の母君にしかられましたよ。」
フリーデルはなかなか兄として遊んであげられなかったと言っていた。
その中において、弟と遠乗りに出かけたのは大切な思い出なのだろう。
「ねえ、フリーデル。こんな事を聞くのはどうかと思うんだけど…」
「何でしょうか?」
「こんな片田舎に来ることになって、実際どう思ってる? …王命とかそういうのは無しにしてさ。」
「これはこれは、中々核心を突くような質問ですね。」
フリーデルは王位継承権が無い庶子とはいえ、国の中枢に近いところで政務を行っていたのだ。それがこんな辺境の地に派遣されてくるなんて、考えようによっては島流しと言っても良い。
「もし私が、何でこんな所に!? と言うような事を答えたら、カール様はどうされますか?」
「どうもしないよ。国王陛下は、合わなければ解任して良いと言っていた。あなたは中央で活躍すべき人だろうし、帰りたいのであれば…意思を尊重するだけさ。」
そこまで言ったところで、フリーデルが右手を僕の頭にポンと置いた。
「私は帰りませんよ。私は自分の責務を果たしていきたいと思っています。」
「それは、なんで…?」
「私はカール・ジーメンスと言う人物にとても興味を持っています。私は、あなたは領民に慕われていると聞いていました。そして普段は必要以上に他人に関わらない弟の心を開き、そして獣人嫌いのアベール侯爵をも惹きつけています。」
「国王陛下は、あまり人に関わらないの?」
「弟は、身内が言うのは何ですが、優れた人物です。しかし反面、王と臣下の建前を超えて他人に関わろうとしません。ある貴族が言ってましたよ。自分は王の部屋に呼ばれたことが無いのに、何故あの獣人は呼ばれたのかと。」
僕がベルクール三世の部屋に行った時、彼の部屋は非常な質素なものだった。
もし配下の貴族たちを自室に呼ぶのなら、権勢を誇るような部屋にするだろうな。
「弟に自室に呼ばれるような者が自分の主になったのです。興味を持たないわけ無いでしょう。」
そんな事を話していると、僕達はジーメンス領の農業地帯に差し掛かった。
「カール様、ここのあたりは小麦が作られているのですか?」
「うん。時期的にもう刈り取りを終えているけどね。」
「なるほど。この
「そうだけど…」
僕の答えにフリーデルは馬を止めて腕を組んだ。
何か考え事をしているようだ。
「カール様。これだけの広さの
後で聞いたのだが、これは二毛作と言うそうだ。
ジーメンス領では稲作を行っていなかったのだが、うまくスケジュールを組めば小麦収穫後に米を育てられるらしい。
「しかしここを水田にする為には効率良く水を引き込む仕組みが必要です。畑自体はうまく開墾されているので、あとは水車を作るだけでいけそうです。木工職人は領にいますか?」
フリーデルは凄い。僕では考えもつかないような言葉が出てくる。
もしかしたら、ジーメンス領の農業革命が起きるかもしれないな。
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