第45話 お誕生日会
うーん。
今日は何かフリーデルだけじゃなく、使用人たち、その他の人たちが何故か余所余所しい。キッチンに行こうとすればラリサに阻止されるし、今日は執務室に缶詰にされてしまった。アイナは今日は朝から姿を見ていない。
「ねえ、ラリサ。」
「ん、なぁに?」
「みんな、どこで何をしているのかな?」
「ん…」
ラリサがふいっと視線を逸らした。
「それはわたしからは言えない。」
「言えないって…。いったい何を企んでるの?」
「それもわたしからは言えない。」
うーん。
今日のラリサはいつもの黒っぽい服装では無く、明るい色のものを着用していた。
紫色の髪の毛も横に縛っていて、こういうのサイドテールって言うのかな。
いつもよりもおめかししている感じだ。
こっそり抜け出して他の人を探したいけど、護衛を務めているくらいのラリサの目を盗んでいくのは不可能だ。
「はぁ…」
僕はため息をついた。仕方ない、仕事するか…。
僕はソファに腰かけ、書類を見始めた。
すとっ。
そうしてるとラリサが僕の横に座ってきた。
「えっと、どうしたのかな?」
「なにも? ちょっと近くで護衛?」
「えっと…」
別にとなりに座っちゃダメって事は無いけど、ラリサさん二の腕が当たっていますけど…。でも拒否したら可哀想だし…。
左腕にラリサのぬくもりを感じながら、僕は資料を読み進めていった。
「ね、カールって、わたしよりだいぶ年下だと思うけど、お勉強とかたくさんしたの?」
「え、ああ。
「ふぅん…。わたしは、勉強ってしたこと無かったからなぁ。」
「もし勉強したいなら、先生に頼もうか?」
「ん、いい。だって、カールが読んでくれるでしょ。」
「まぁ…、そうだね。」
そう言えばここ最近、ラリサが僕を呼ぶとき“様”を付けなくなったな。
言葉遣いも硬さが無くなった気がする。
「あ、カール。そろそろ、ごはんの時間だよ。」
僕は壁掛けの時計を見た。時刻は夜の7時、いつもの夕食の時間だ。
「そうだね、食堂に行こうか。」
「うん、もう大丈夫だと思うし。」
「大丈夫って何が?」
「わたしの口からは言えない。」
ラリサはそう言って僕の手を引きながら立ち上がった。
―――
僕達は階段を降り、食堂に向かった。
いつもは開いている食堂の扉が閉ざされていた。
「カール、良いって言うまで、まだ入ってこないで。」
「え、ええ…?」
「絶対だよ。」
ラリサはそう言い残すと先に食堂に入っていった。
3分ほど経っただろうか。中から「良いよ~」と呼ぶ声が聞こえた。
僕は食堂のドアを開けた。
「カール君、お誕生日おめでとう!!!!」
「おめでとうございます!!!」
パン!!!!!
誕生日を祝う声と共に、クラッカーの音が鳴り響いた。
いつも食事している場が飾り付けられ、家族や使用人、奴隷達の明るい笑顔が並んでいた。
「え…?」
僕は口をあんぐりさせた。誕生日…?
「何をぼーっとしてるんですかい! カール坊ちゃま!」
ハンスが冷やかしたような感じで言った。
「た、誕生日って僕の?
僕は
「ええ。今日はあなたがこの家に来た日よ。去年は
そう言えば、僕の義両親は毎年ささやかなお祝いをしてくれてたな…。
この1年、ずっと駆け足だったから忘れてたよ。
そうか、今日みんな余所余所しかったのはこのためだったのか。
「今年はうちはとても賑やかになったわ。素敵な婚約者のアイナちゃんも来てくれたし、フリーデルや他の皆も…。
「そうですね…。みんな、ありがとう。みんなに祝ってもらえて僕は嬉しいよ。」
僕は一礼した。
「さあ、主役が来たところだし早く乾杯しようぜ!」
「乾杯の挨拶は誰がやるの?」
「そりゃあ、主役のカール様だろ!」
「ぼ、僕!?」
どうやら僕が挨拶をしないといけないらしい。
「え、ええっと…。今日は僕の為に誕生日会を開いてくれてありがとうございます。この1年ジーメンス家にはいろいろなことがあったけどみんなのお陰で…」
「カール君、長い!」
「そんな理不尽な…!」
えーっと、そんな和やかな雰囲気で誕生日会は進んでいった。
みんな思い思いに食事に手を伸ばし、お酒やジュースを飲んで盛り上がっていた。
「ねえ、カール、様。」
ラリサがとてとてと僕に近付いてきた。
みんながいる前では様を付けて呼んでくる。
「これ、プレゼント。わたしの一族で昔作られてた、お守り。わたしが作ったんだ。」
紫色の石が付けられた首飾りのようだ。
「これ、ラピスラズリ? よくこんなキレイなの手に入ったね。」
「市場の雑貨屋さんが仕入れてくれたんだ。カール、様が毎月くれるお給金を貯めたの。…足らなかったけど、アイナ様が足りない分出してくれたんだ。」
「そうなんだ…」
僕が奴隷達に与える給金は、まだ豊かとはいえないジーメンス家からのものだから、それほど大きい金額を渡すことは出来ない。
この子はあまり自分の為にお金を使わないとはいえ、大変だっただろう。
アイナにも御礼を言わないとな。
「わたしの魔力も込めたから、身に着けてくれると嬉しいな。」
ラリサがはにかみながら言った。
「うん、ありがとう。嬉しいよ。」
僕は早速首飾りを身に着けた。
「ん!」
ラリサがにこっと笑うと、顔を赤らめたまま走り去っていった。
僕はその姿を見届けると、アイナの隣へ向かった。
「アイナ。」
「あら、カール君。ああ、それラリサから貰ったのね。」
「うん。アイナも手伝ってくれたって聞いたんだ。ありがとう。」
「いえいえ。私にはそれ以上の事が出来ないからね。」
アイナが僕にジュースが入ったコップを差し出した。
「ありがとう。」
僕はコップを受け取ると、ジュースに口を付けた。
「私も何かプレゼント渡そうと思ったんだけど、ラリサのそれには敵わないから別の機会に考えることにしたわ。ごめんね。」
「良いよ。それにいつもアイナには助けてもらってるし。」
「そ、そうかしら。」
アイナが顔を赤らめた。
「それにしても妬いちゃうわねえ。そんな素敵な首飾りを渡されちゃうなんてね。」
「そうかな…。しかし最近ラリサ、距離感が近いような気がするけど、何でなのかな?」
「え…」
アイナが首を傾げた。
「カール君、あなた、その訳に全然気づいてなかったの?」
「え、わ、訳って?」
「
「え、えええ!?」
突然なんてことを言いだすのだろう、この婚約者様は…!
「まあ私も本人から直接聞いたわけじゃないし、聞いても自分からは言わないだろうけどね。」
「それじゃあ何でそんなことが分かるの?」
「カンよ、カン。
うーん、そう考えるとだんだん近くなってくる距離感や僕の呼び方も頷けるのかもしれない。
「まあ私は負けるつもりは無いけどね。カール君の婚約者は私なんだし。」
まるで宣戦布告だ。
うーん、どうしたら良いかどんどん分からなくなってきちゃった。
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