第14話 たぬき伯爵、やっと仕事ができる

「ふぅ…」


僕は書類を眺めながら息を吐いた。

昨日はとんでもない日だった。隣国の姫・アイナにずーっと纏わりつかれて凄く疲れてしまった。

実務はかなりフリーデルがやってくれるとは言え、僕にも領主としての仕事がある。

溜まっている仕事を、少しでも片付けなくては。


「よしっと!」


僕は書類に判を押した。

この書類は農作物の収穫量と税収に関するものだ。

フリーデルが来てから、ジーメンス領の税収は確実に上がっている。

麦収穫後の寝ていた畑を水田にして稲作を行ったのだから当然だ。

フリーデルの政治手腕は本当に凄い。


「へぇぇ。ここでは二毛作をやっているのね!」


顔のすぐ横で吐息と共に声がした。


「わぁぁぁあ! アイナ!? いつの間に!??」


アイナがいた。いつの間にここに来たのだろう?

服装は昨日同様ワンピースだが薄い紫色のおとなしめな感じだ。


「いやね、カール君。そこまで驚かなくても…。10分くらい前からいたんだけど真剣にお仕事してたからじっと見てたんだけど…」


アイナが僕の肩に手を回した。


「でもこの税収は凄いね。この数値が昨年なら、単純に1.5倍? でも税率が低い…?」


「うん、これはフリーデルのアイデアなんだ。税率を今まで通りにすればもっと税収を増やせるんだけど、田畑や配水施設の改修には領民にも携わってもらったから、その報酬も兼ねて税率を引き下げたんだ。税率はその年の収穫状況によって変動させる体制に切り替えたんだよ。」


「へぇ…。オルロヴァうちとはだいぶ考え方が違うのね。」


「うちの領地は300人くらいしか住んでないから、やっぱ領民一人一人が豊かになってもらわないとね。」


「ねえ、カール君。この屋敷の側にさ、農作物を試験栽培する研究施設みたいなのを作ってみない?」


「研究施設…?」


「ジーメンス領ってさ、結構広いでしょう。フリーデルさんも、もっと農地を広げたいんと思っていないかしら。」


「うん、そう言ってたね。」


「それならある程度事前にジーメンス領で栽培できるか試験して、その結果が良いものを作付けするのが良いと思わない?」


確かにその通りだ。開墾して農地を増やしても成功するか分からないものを栽培しても失敗するかもしれない。

事前に小規模に栽培してみてうまくいったものを広げて行った方が良いだろう。

アイナ姫ってもしかして、かなり頭の回転が速いのではないだろうか。


「作物の種なら、オルロヴァうちからも融通できるわ。この大陸中の商人が訪れるし、他の大陸の物も手に入るよ。」


他の大陸のものか。興味あるけど、フリーデルが生態系に影響するかも? とか言ってたな。


「うーん、他の植物に影響あったら嫌だから、まずはこの大陸の物で考えようと思うよ。」


「かしこまり! 実際の準備は帰国してからになるけど、先にリストアップしてもらうようにオルロヴァうちに手紙を出しておくね。」


「うん、ありがとう。」


「どういたしまして。…んーと、あまりカール君の邪魔をしては悪いから、私はお母さまのところに行ってくるわね! 編み物を教えていただく約束なの。」


「そう…なんだ?」


どうやらアイナは義母ははとも仲良くなったみたいだ。

義母ははも子供が増えたみたいで嬉しいのかもしれないな。


「じゃあ、行くね! またお昼の時にお話ししましょう!」


アイナは手をひらひらとすると、小走りで部屋を出て行った。

今日のアイナは、昨日とだいぶ違う感じだな。

アイナはいろいろな表情を見せてくれるから、僕も凄く楽しい。


「さて、もうちょっと頑張るかな!」


僕は再び書類の束を捲り始めた。









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