第40話 来訪者との密談
ジーメンス領に戻ってから数日、特に何事も無く過ごしていた。
ちなみにハルピュイアのロコであるが早速僕の家庭教師をあてがい、勉強してもらっている。時折顔を真っ赤にして煙が出そうになっている時もあるようだが、それは我慢してもらおう。
「カール様、少しよろしいですか?」
執務室にフリーデルが入ってきた。
「うん、どうしたの? フリーデル。」
「少し打ち合わせをさせていただきたく。」
「それはどのような…?」
「はい、“茶会”についてです。今日は業者も招いております。」
北方山脈の調査を決めてから、僕達は一般の人たちに聞かれても構わない用語を使うようにしていた。これはフリーデルからの提案で、念には念を入れての事だ。
「分かった。アイナ、ちょっと茶会について決めごとがあるんだけど、君も参加するかい?」
僕は一緒にいたアイナに聞いた。
「ええ。是非私もご一緒したいわね。」
「よし、じゃあフリーデル。さっそく業者さんを招き入れてもらえるかな。」
「畏まりました。」
フリーデルが一礼して部屋を出て行った。
“茶会”の準備に招かれる業者という事であるから、中々に重要な人物が来るのだろう。
しばらくしてフリーデルが一人の男を伴って部屋に戻ってきた。
白髪で口ひげを蓄えた長身の男性だ。
服装は
「ジーメンス伯爵様。お初にお目にかかります。私は茶問屋の…っと、それはここでは良いですな。私は元王国第2騎士団副団長のロベルトと申します。」
男はロベルトと名乗った。
「僕はカール・ジーメンスと申します。どうぞ、そちらにお掛けください。」
僕はロベルトに答えた。
ロベルトが目の前のソファに腰を下ろした。
「元第2騎士団…という事は、アベール侯爵様の…?」
「その通りです。」
「なるほど。それでロベルトさんはどのようなご用件でこちらにいらしたのですか?」
「はい、クリストフ…、アベール侯爵からの言伝を頼まれましてな。」
言伝…? そう言えば最近伝書鳩での手紙の回数が少なくなったような気がしていた。来ても内容は当たり障りのないものばかり。
何か不都合な点があったのだろうか。
「それはどのような…?」
「はい。ナイザール国王ベルクール三世陛下の手の者…、具体的には王国情報部の者がジーメンス領に探りを入れようとしております。」
「情報部…!?」
僕はフリーデルを見た。
「王国情報部とはその名の通り、国王府直属の諜報組織です。つまり
ロベルトがフリーデルの事をじっと見つめた。
「フリーデル殿下…、ここではフリーデル殿を呼ばせていただくが、貴方は“こちら側”の方と考えてよろしいのですね?」
「ロベルトさんは、当家の家令を、フリーデルをお疑いですか?」
僕がロベルトに反論した。
「性分なもので、申し訳ございません。いえね、アベール侯爵からは信用に足る人物だとは聞いておるのですがね。」
「ロベルト殿の懸念ももっともです。カール様。ロベルト殿はかつて第2騎士団副団長の時に、騎士団内の諜報部隊を統括されていたのですよ。…ロベルト殿、私は名実ともにジーメンス家の一員と思っています。お疑いになるのは別に構いませんし、もしアベール侯爵様の不都合になると思ったらどうぞ私の事を切り捨ててはいかがか?」
フリーデルがロベルトへ強い視線を向けた。
「これは、失礼いたしました。私の失言です。どうかお許しください。」
どうやらロベルトが納得したようだ。詫びるように頭を下げた。
「…話を戻しますが、王国情報部の数名はジーメンス領に入る前に既に私の手の者が発見し排除しました。1名は取り逃がしましたが、少なくともジーメンス領には入っておりません。」
「排除…って、殺し…?」
「ご想像にお任せします。しかしこのような事は甘く考えてはいけない事であるとだけ申し上げておきましょう。」
つまりは、そういう事だ。
「それともう一つ。先程申し上げましたように私は第2騎士団の出身でして、今でも騎士団の一部兵力を動員できます。商業国家オルロヴァの警護兵200名も我らの息が掛かっておりますし、その他に500名の兵を即応させることが出来ます。時間を掛ければ2000名までは動員できるでしょう。」
第2騎士団の総兵力は5,000名程と聞いたことがあるから、その4割は動員できるという事か。
「つまり、何がおっしゃりたいのですか?」
「はい。ジーメンス領のもともとの警備兵は80名程しかいないと聞いております。アベール侯爵はそれをたいへん心配しておりまして、有事の際には是非第2騎士団の力を使ってもらいたいという事でした。」
「カール様、この申し出は是非お受けなさいませ。この先北方山脈の開発に注力していく中で事態はどのように動くかが分かりません。領地の守りは絶対に必要です。アベール侯爵様の息が掛かった兵力であれば問題は無いかと思います。」
二人の言いたいことは分かる…が、それは新たな火種になったりしないのだろうか?
「それって大丈夫なのかな? 国王陛下がこちらに目を付けているのなら、火種にならない?」
「そこは工夫次第でしょう。我々が画策していることを、今王国中央に悟られるのはよろしくありませんから。」
「うーん…」
僕は腕を組んで唸った。どうしたものか…。
「ならカール君、こういうのはどうかしら?」
そこにアイナが口を挟んできた。
「こちらのロベルトさんがおっしゃるように、私の故郷オルロヴァの守備は第2騎士団に依存しているの。もともと200名の兵士に駐留してもらってるけど、その戦力増強と称して500名の兵をオルロヴァとの国境手前に拠点を作って駐留してもらいましょう。オルロヴァは都市国家だから500名もの兵士を駐留させる場所が無いとでも言えば、もっともらしい理由が作れるわ。」
「でも何で兵力を増強するの? って聞かれないのかな。」
「そんなものはいくらでも後付けできるし、オルロヴァ太守の父上の要請だという事にすれば問題無いでしょ。」
うーん、僕の婚約者さんはとても頭が回る回る。
「それは妙案ですな。ではその方向で手筈を整えましょう。えっと、奥方様ですかな? オルロヴァ側への働きかけはお願いできますか?」
「はい、お任せください。すぐに父上へ使いを出しておきますわ。」
どうやら話が纏まってしまったようだ。
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