第41話 領地巡回(春)

ジーメンス領も季節が進み、だいぶ気温が上がってきた。小麦畑もあと二月ふたつきほどで収穫時期だろうか。

僕は馬に乗り、護衛のラリサを連れて領内を巡回していた。


「おお、カール。」


農夫頭のベルントが数名の農夫と共に農作業を行っていた。


「ベルントさん、精が出るね。」


僕はそう言うと馬を降りた。


「それは今年初めて作るお野菜なの?」


「ああ、これはジャガイモだな。カールが持ち帰ってきた恩賞に種芋があっただろう。」


「そう言えばそうだったね。これはいつ頃に収穫できるものなの?」


「フリーデルの旦那が入手してきた農業の書物だと、夏前くらいに収穫できるあったな。」


なるほど。我が領地で新しい野菜が作れるようになるのは喜ばしい事だ。


「そうなんだね。もし何か必要なものがあったら、あとで報告してね。」


「ああ、分かったよ。そういえば、フリーデルの旦那は外に出てるのかい? ここしばらく見かけないが。」


「ああ…」


僕は一瞬言葉に詰まった。僕達が進めている北方山脈の調査・開発はまだ領民には告知していないからだ。


「実はそうなんだ。農業の方は軌道に乗ったから、次の産業が何か出来ないか考えててね。その仕事に出てもらってるんだ。」


「なるほどなあ。儂には分からないが、あの旦那ならきっとうまくやるさ。」


領民からのフリーデルへの信頼は本物だ。彼は本当によくやってくれている。

ちなみに北方山脈の調査の件だが、現在ハルピュイアの集落近傍に拠点となる施設を建設中だ。フリーデルと補佐のマリーナは拠点とジーメンス家の屋敷を行き来するが、冒険者チームとボリス以下獣人達はそこに詰めてもらうことになった。

また第2騎士団からも30名程がそこの警備と拠点の建設作業に協力をしてもらっている。


「じゃあ僕はそろそろ行くね。ちょっと市場の方を回る用事があるから。」


僕は再び馬にまたがり歩を進めた。

そいや乗馬もだいぶ慣れてきたかな。最初は上手くできなかったけど、練習した買いがあったな。


「カール様。」


僕の後ろで同じく馬に乗っているラリサが話しかけてきた。


「ああ、何だい? ラリサ。」


「あの先、たぶん、ロベルトのところの、連絡員いる。」


ラリサが前方を指さした。

うーん、何も分からないな。


「何も見えないけど…」


「ほら、わたしの、そういう能力だから。」


前にも述べたが、ラリサは広範囲の気配を察知できる能力がある。


「ロベルトさんのところの人なら特に何も心配いらないよね。」


「うん、敵意は、感じないよ。でも邪魔ならどかしてくるけど…」


「えっと、まぁ、気にしなくて良いんじゃないかな?」


僕は特に気にしないことにした。何かあれば向こうから接触してくるだろう。

20分ほどで、僕達は市場に到着した。


「よいしょっと…」


僕達は馬を降り、市場の入口で馬を預けた。

さすがに市場の中に馬で入る訳にはいかない。


「ちょっと喫茶店で休憩しようか。」


「うん。」


僕達はなじみの喫茶店に入った。ここは幼少時から来ていたお店だ。


「おやまぁ、カール坊ちゃま。いらっしゃい。」


お店の女将さんがにこやかに出迎えてくれた。


「こんにちは、女将さん。いつものジュースお願いできるかな。」


「かしこまり! えっと、そちらのお嬢ちゃんは?」


「わたし? 別になにも、いらないけど…」


ラリサ、また遠慮しちゃって…、しょうがないな。


「女将さん、僕と同じものでお願い。」


「分かったわ。」


少しして女将さんがニコニコしながらジュースを持って来てくれた。


「お待ちどうさま。柑橘系のジュースよ。」


ジーメンス領では実は柑橘系の果物が小規模栽培されている。

他へ売るほどでは無いけど、今後耕作面積を広げられれば産業になるかもしれないな。

…などと真面目な考えを巡らせていると、ラリサが先にジュースを飲み始めたようだ。


「美味しい…」


「そうでしょう。お嬢ちゃん、あなた笑うと可愛いんだから、もうちょっとにこにこしたほうが良いんじゃない?」


「か、かわ…!?」


ラリサがほんのりと顔を赤くした。

まったく、女将さんに掛かってはあのラリサも形無しだな。


「しかし坊ちゃまも隅に置けないわねえ。アイナちゃんっていう婚約者がいながら、こんな可愛い子とデートだなんて。」


「デ、デデデ、デート!?」


「あら、違うのかしら?」


「ラリサは僕の護衛なんですよ! 特にそう言ったものではありませんよ。」


「あら、そうなの…」


僕はチラッとラリサを見た。

何だかしおしおっとしている気がするけど、まさか君、そういうつもりは無いよね?

うーん、何か誤解されないように気を付けないといけなさそうだな…
















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