第8話 補佐官フリーデル
王都からの帰りの馬車の中、そこは何とも言えない雰囲気に包まれていた。
「・・・」
「・・・」
補佐官して王都より同行する事となったベルクール三世の兄フリーデルが、僕の対面の席で書類を読んでいた。内容は…どうやら農業に関する資料らしい。
「(この人、喋らないね)」
「(ああ、そうだな…)}
僕の横に座っているメアリーが、荷台の方にいるハンスとひそひそと話をしている。
もしかしてフリーデルには聞こえているのかもしれないが、彼は意に介している様子はない。
「あの、フリーデル殿下。」
僕はこの雰囲気に耐えられず、目の前のフリーデルに話しかけた。
フリーデルはチラッと僕を見たが、直に書類に視線を落とした。
や、やっぱイライラしているのかな…?
何とか機嫌を直して貰わないと…
「殿下、その、今見られているのは…ええっと。」
そこまで言ったところで、フリーデルが手元の書類を折り畳んだ。
「それはいけませんね。カール様。」
フリーデルが僕をじっと見てきた。
「え、いけないって…?」
「私は国王陛下より、カール・ジーメンス伯の臣下となり御支えするように王命を承っております。即ち貴方は私の主なのです。いくら私が王族の出であろうとも、臣下としての扱いをして頂かなくてはなりません。」
「ええ!? でも…」
「ってことはアレですかい? フリーデル、殿下、は俺やメアリーと同格でことですかい?」
僕が動揺しているとき、ハンスが口を挟んだ。
「もちろんです、ハンス殿。あなたが私を同僚として扱ってくれるのなら、それでも構いません。」
「へ、へえ…。しかし、この王国では坊ちゃまに対するむちゃぶりが流行ってるのかね?」
「無茶ぶりとは…?」
「いえね、国王陛下が坊ちゃまに対して自分の事をケルト兄さんと呼べ、と言ったりさ。」
「ふぅむ…」
その言葉に、フリーデルがふっと笑った。
「私は先代国王の第一子として生まれたが、妾腹でな。王位継承権が無かった。弟は、国王陛下は私が10歳の時に生まれたのだが、それはもう厳しく育てられたものだ。王立学院に通う頃には私はもう政務を行っていたからな。兄として遊んでやることもあまり出来なかったから、ずっと“男兄弟”が欲しかったのかもしれないな。」
フリーデルが苦笑いしながら言った。その眼は少し寂しそうな感じがした。
「でも、国王陛下はフリーデル殿下の事を尊敬してるみたいでしたよ。兄上は何をやらせても完璧だったから、いずれは追いつきたいと言っていました。」
慰めるつもり、と言うわけでは無いが僕はにこっと笑顔を浮かべながら言った。
「弟が…、そうですか。しかし…」
フリーデルが少し笑ってから、表情を引き締めた。
「カール様。先程も申し上げましたが、貴方は私の主なのです。私の事はフリーデル、と呼んで頂かなくてはなりません。そうでなければ、領民に対して示しがつきませんからね。」
「そ、そんなぁ…」
「じゃあ俺やメアリーがフリーデル、殿下に馴れ馴れしく接すれば坊ちゃまも慣れてくれますかい?」
ハンスが僕を冷やかすように言った。
「おお、それは良い考えだ。私の方もハンス、メアリーと呼ばせて貰うから、その様に頼むよ。」
「はっはっは! そいつはいいや。よろしく頼むぜ、フリーデル!」
「私も同僚にイケメンが欲しかったんだぁ。ちょっと年上だけどあなたは凄くイケメンだから、毎日ちゃんとお化粧しようかしら。」
先程までシーンとしていた車内が和んでいく。
うーん、大丈夫だよね? いきなり不敬罪とかにならないよね?
「あ、うん。分かりま…、分かったよ。よろしくね、フリーデル。」
僕は観念した。
「は…。改めまして、よろしくお願いいたします。カール様。」
フリーデルが僕に対してにこやかに一礼した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます