第7話 恩賞、そして驚きの同行者
それから数日の間に、
そして王都から帰路へ着く日となった。
僕は
あの大きかった
現実とは非情なものだ。
「あれ、ハンス。うちの馬車は…?」
僕は傍らのハンスに話しかけた。
行きに乗ってきたはずの馬車が無かったのだ。
「そ、それがあれらしいです…」
ハンスが指さした先には乗ってきたものとは似ても似つかない豪華な馬車があった。
確かに馬は僕達の馬車を引いてきた馬に違いないし、紋章もジーメンス伯爵家の物が付いていた。
「坊ちゃま!坊ちゃま!…っていけない、ご主人様!?」
メアリーが馬車からぴょんと飛び降りてきた。
「え、っと何かな? メアリー。」
「この馬車、後ろにもう荷物が乗っているんです! そのお金とか、色々!」
「・・・」
これは一体どういうことなのだろう?
「やっと来たか、ジーメンス伯。」
声がした方向にはアベール侯爵が立っていた。
僕は
「アベール侯爵様、おはようございます。えっと、これは一体…?」
「ああ、これ等は貴家へ送られる恩賞だよ。これが目録だ。」
アベール侯爵が僕に紙を手渡した。
それにはこう書かれていた。
「目録」
・ナイザール国王ベルクール三世の名において、以下恩賞を下賜する。
馬車、報奨金、糧食、種籾、種芋、医薬品
・また下記人物を同行させる。
領地経営の補佐官1名(及び、護衛兵5名)
王宮医師1名
「恩賞については儂が考えた。馬車は、行きで見たあんなぼろいのはダメだな。お前は伯爵なのだから見栄でも良いから、あれくらい立派なのに乗っておけ。ああ、壊れたら修理は気にしなくて良いぞ。伝書鳩でも遣わしてくれれば修理の手配は儂でするからな。」
「え、ええ…?」
「報奨金は戦で首級を上げたくらいのものを申請しておいた。大切に使う事だ。糧食は通常の飯に加え、そこなメイドが好きそうな焼き菓子を付けておいた。種籾・種芋は是非農地経営に使ってほしい。お前の領地はなかなか農業に苦戦してると聞いたからな。」
「・・・」
僕はごくっと唾を飲み込んだ。
「それと医薬品はお前の
「侯爵様…」
「ん、どうした? ジーメンス伯。」
「どうして、どうしてこんなに…良くしてくれるんですか? 貴方は僕みたいな獣人が嫌いなんでしょ?」
アベール侯爵が僕の問いに目を丸くした。
「何故…って、国王陛下が王命にて儂に命じた仕事だからな。手を抜くわけにはいかんよ。」
「でも…」
アベール侯爵が少し笑みを浮かべた。
「そうだ。儂は獣人が嫌いだ。人が統べる国は、人が上に立つべきと思っとる。だがな…」
侯爵は僕を指さした。
「前にも言ったが儂は目の届く所で困っている者を放っておく程落ちぶれてはおらぬ。まぁ、儂の派閥にはそうでは無い者がいるのは確かだがな。」
「…ありがとうございます。侯爵様。」
その様なやり取りをしていると、城の方からベルクール三世が数名の人間とこちらに向かってきた。
「ほうほう、やっておるな。感心感心。」
「これは陛下…」
アベール侯爵が一礼した。僕もそれに倣った。
「うむ。アベール侯爵、大儀であった。お主のお陰でジーメンス伯へ良いものを贈ることが出来たよ。」
「は、持ったなきお言葉。」
「しかし、侯爵もポケットマネーからだいぶ出してくれたようだな。」
ベルクール三世の言葉に僕はびっくりしてアベール侯爵を見た。
「へ、陛下! それは言わない約束だった筈ですぞ!?」
アベール侯爵は少し顔を紅潮させた。
「侯爵!!」
僕は思わず侯爵にガバっと抱き着いた。
それは傍から見たら、まるで幼い子供が父親に甘えるかの様に見えたことだろう。
「…まったく。家に着いたら、手紙の一つでも寄こすのだぞ。」
侯爵は僕の頭をポンポンと叩いた。
「はい、必ず。」
僕は侯爵から離れた。
「ははは、カールには侯爵も形無しだな。無理もないぞ! ははは!」
ベルクール三世が豪快に笑った。
「さてカール。こちらに連れて来たのが同行者だ。まずは、こちらが王宮医師アデリナ、そして…」
ベルクール三世が後ろに控える人物を順々に紹介していく。
「最後に補佐官だ。領地経営に役立つはず。…兄上、自己紹介を。」
「え、兄上?」
僕はベルクール三世の横の長身の男性を見た。
「私は国王陛下の実兄、フリーデルと申します。お見知り置きを。」
え、ええ!? 補佐官って王様のお兄様なの!?
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