第37話 ハルピュイアの集落

僕達は遭遇したハルピュイアに案内され、彼等(彼女等?)の集落を訪れた。

集落と言っても周りの森の木々を細工・加工した程度のもので、家と言うよりは巣であると言えるだろう。

この集落には40体程のハルピュイアが暮らしているようだ。


「ココダ、中に入レ。」


「はい、お邪魔します。」


赤毛のハルピュイアに促され、集落で唯一の家とよべるような草木の建物の中に入った。


「フム、客人かな…?」


目の前には他のハルピュイアよりも体の大きなハルピュイアが座っていた。

体毛は赤毛だから、先程のものの血縁だろうか?


「え、えっと。僕はカール・ジーメンスと申します。横にいるのは僕の家令のフリーデル、後ろにいるのは僕の配下の者達です。」


僕は目の前のハルピュイアに向かって一礼した。


「ほう、そこな狸獣人が、人間や亜人達の主人とは…。儂は我が一族を束ねるテオフィラと申す。」


主のテオフィラは他のハルピュイアよりも流暢な言葉を話せるようだ。

外見はそれ程年を取っているようには見えないが、おそらく長年生きてきているのだろう。


「僕達を案内してくれた同じ毛色の方はテオフィラ様のご家族ですか?」


「そうだ。娘のロコと言う。」


「なるほど。ロコさん、ありがとうございました。」


僕はロコの方に向いてペコっと頭を下げた。

ロコは気恥ずかしそうな表情を浮かべた。


「してお前達は我が集落に何しに来たのだ? よもや我が集落に害をなそうと言うのではあるまいな?」


「いえ、そういう事はありません。それに関してはフリーデルから説明させていただいても良いでしょうか?」


「ふむ、フリーデルとやら、話すと良いぞ。」


テオフィラが僕の隣に控えていたフリーデルの方を見た。


「ありがとうございます。では…」


フリーデルが僕達はこの山に来た目的を説明した。

テオフィラは時折相づちを打ちながらそれを聞いていた。


「なるほどのう。して、お前達は我らに何を望む? 我が一族は遥か昔に人間たちの迫害から逃れ、この森に住んできたのだ。我らとしては何も干渉してほしくないくらいだ。」


テオフィラが立ち上がって僕の前にふわっと近付いてきた。

そして鋭い爪を僕の頬に突き付けた。


「おまえ…!?」


ラリサが咄嗟に短刀を抜こうとしたが、僕はそれを手で制した。


「では、お前達の主に聞くとしよう。お前達は我が一族に何を望む?」


「はい。僕があなた達に望みたいのは、僕達と仲良くなってほしい、それだけです。」


「仲良く…?」


「はい。いけませんか?」


僕の答えに、テオフィラが一瞬あっけにとられたような顔になったが、すぐに声を立てて笑い始めた。


「ははは、仲良くか! ははは!!」


「テオフィラ様、僕は真面目にそう思っています。見ての通り、僕は獣人です。ですから、僕はあなた方の気持ちが良く分かります。」


「そうであろうな。お前は狸獣人だからな。」


「でも僕にはフリーデルやそこのラリサ、他にも大切な家族や友人に恵まれています。僕は僕達と仲良くしてくれる皆を大切にしていきたいんです。」


「ふうむ…」


テオフィラが僕から爪を離した。


「ははは、お前は面白い事言うな。良いだろう。そこまで言うのなら、カールの坊やよ、我らと仲良くしてみせよ。」


テオフィラはハハハと笑いながら自らの席に戻った。


「はい! それで、僕達は何をすれば仲良くしてくれますか?」


「そうだな…。お前は我が一族の暮らしを見たか? お前にはどう見えた?」


「それは、正直に答えても良いですか?」


「うむ。」


「はい、では…」


僕はハルピュイアの集落を見た感想を正直に話した。

それはとても裕福には見えず、十分な暮らしをしているように見えないと言うものだ。


「そうだ。この森での暮らしは厳しい。特に冬の寒さが厳しく、狩りをするのも大変なのだよ。」


ハルピュイアという種族は狩猟で生活をしているようだ。

それなら確かに季節によってはかなり厳しいだろうな。


「お前達が我が一族と誼を通じたいのなら、まずは我が一族の暮らしを助けてくれないか。そうすれば我等もお前達に応えよう。」


一族を率いるテオフィラの目は真剣だ。


「分かりました。フリーデル、任せられるかな?」


「承知しました。つきましてはテオフィラ様のお許しを頂きたいことがあります。」


「何かな?」


「この集落の暮らしの改善をしていくために、我がジーメンス領から数人の人族の派遣を認めていただきたい。」


「認めよう。ではカールの坊や、こちらからも良いかな?」


「はい、何でしょうか?」


「我が娘を、お前達の領地へ連れて行ってほしい。」


「は、ハハウエ?」


ロコがびっくりしたような顔になった。


「娘は将来、我が一族を継ぐ立場になる。そのためにいろいろな経験を積ませたいのだ。」


なるほど、親心と言うやつかな?

教育なら基本的なことならジーメンス領でも出来る筈だ。


「分かりました。ロコさんには帰りに一緒に来ていただきましょう。」


「よろしく頼む。それに番になるものも見つけないといけないからな。」


「それってどういう…??」


…あとから聞いたのだが、ハルピュイアと言う種族は雌しか生まれないんだそうだ。子孫を残すためには、そう、異種族の雄が必要だ。

常に子は混血になるのだが、子に受け継がれる形質はははおやのそれだそうだ。

この集落で父親の姿を見ないのは、あまり一緒に暮らすことが無いからか、あるいは先に命を落とすことが多いらしい。

うーん、ちょっと他の種族とは違う生活感なんだな… 











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