第54話 sideラリサ-修行する (2)
メアリーに連れてこられたのはキッチンだった。
「えーっと、メアリー?」
わたしは戸惑いながらメアリーの顔を見た。
「さあ、やるわよ! ラリサ!」
「やるって、何を…?」
「キッチンに来たらやることは一つに決まってるじゃない! 料理よ!」
メアリーがフンフンっと腕まくりしながら答えた。
料理…、そんなこと今までやったこともない…。
「ええ、でも、わたし、料理なんてやったことないよ。」
「大丈夫よ。お姉さんがちゃんと教えてあげるから…!」
お姉さん…。
確かにわたしはどちらかと言うと他の女の人より幼く見えるし“絶壁”ではあるが、種族としての特性を考えれば、恐らくわたしのほうが年上だろう。
まあ、この状況でそんなことを言うのは野暮なのかもしれない。
「う、うん…。分かった。」
わたしは諦めて、メアリーの言う事に従う事にした。
―――
グツグツグツ…。
コンロの上の鍋では野菜と肉が煮込まれていた。
牛乳も入っているので、白いスープの様な感じだ。
「それはシチューと言う料理なの。とろみがついて来たら味を調整するわね。」
「とろみ、が出てくるのか?」
「さっき小麦粉を入れたでしょう。」
「ふぅん…。それでとろみがつくのかあ。」
「どうかした?」
「何か料理って、魔法みたいだ。」
わたしは今まで食べる専門…と言うか、魔族はそもそも小食であったし、碌な扱いを受けてこなかったから、このような暖かい料理を自らが作ると言う経験が無かった。
「ふふふ、それを言うなら料理は短剣術でもあったでしょう。中々様になってたわよ。」
「そ、そうかな…?」
「包丁の持ち方は最初変だってけどね。」
わたしは苦笑した。
わたしの武器は短剣だったから、食材を切るのは簡単に出来ると思ったんだけど。
いきなり言われたのは「持ち方がちがーう!」であった。
それにジャガイモの皮を剥いたりとか、肉を優しく薄切りにしたりとか…。
包丁と言う刃物は、実に難しい。
「で、でも! ちゃんと出来たでしょ?」
「うんうん、頑張ってたわね。」
メアリーの優しい笑顔に、わたしはほっと胸をなでおろした。
「そう言えば、今日は、何でわたしに料理を教えてくれたの?」
「うーん、ラリサってさ。もちろん仕事が坊ちゃまの護衛だから仕方ないんだけど、いつも気を張ってるでしょ。少しは気分転換してほしいと思ったんだけど…」
「そ、そうなのかな…」
「そうよ。それで、あなた、いつも坊ちゃま第一でしょう。だから坊ちゃまの為に料理を作るのが気分転換になるかなあって。」
メアリーの言葉に、わたしは左手で胸のあたりを押さえた。
嬉しい。
メアリーはわたしに気を使ってくれていたのだ。
「あ、うん。ありがとう、メアリー。」
「それに負けたくないでしょ?」
「え、負けたくないって…?」
「アイナ様に、よ。」
「え、えっと。何を言ってるの…!?」
「えーだって、あなた、坊ちゃまのコト好きなんでしょ?」
「え、えええええ!? 何を言っているの?」
わたしは赤面した。
いや、元の顔色が青白いから分かりにくいのかもしれないが、きっと赤面しているに違いない。
「まあ私はジーメンス家のメイドだから、立場としては坊ちゃまと婚約されてるアイナ様を応援するべきだけど…」
「そ、そうだよ。わたしは奴隷で…」
「だとしても坊ちゃまが身分とか気にするような人じゃないのは分かってるし、恋は何が起こるか分からないわよ。それに貴族が側室を迎えるのは、普通の事よ。」
メアリーがふんふんと、勝手に考えを巡らせている。
どこかで止めないと、どんどん妄想が膨らんでいきそうだ。
「あ、メ、メアリー! シチューはどうかな?」
「そうね。良く煮えてきたから、ここで塩と胡椒で味を調えましょう。それととっておきの調味料を加えなくてはね…!」
「とっておきの…?」
「あら、決まってるじゃない。ほら、ラリサの愛情よ!」
だめだこりゃ…。わたしはため息をついた。
…でも、わたしの初めての料理、カールは喜んでくれるかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます