第150話 気遣い

「ありがとう。」そうお礼を言うと、僕も老紳士に倣うように背筋を伸ばした。おそらく、老紳士は僕に気を使ってくれたのだろう。仮に老紳士が一人で歩いていたのならば、もっと距離を歩いてから足を休めるところを、僕が足を引っ張ってしまっているのだ。港まではまだ距離があるとは思うけれど、できる限り早く着くことが今は必要だ。早く着けばそれだけ情報を集める時間が増え、それだけ捜索の成功率も上がる。老紳士もそれが分かっていたから、今まで休まなかったのだろう。


「お気になさらず。」老紳士の表情には少しの笑顔があった。ここまで歩いてきたのにも関わらず、姿勢も表情も崩さないとは……改めてある種の恐ろしさを、僕は老紳士に対して感じた。最早通常の人間ではないといえる僕が言うのも変だけれど、僕よりよっぽど老紳士のほうが人間離れしているのではないだろうか。むしろ、老紳士が不老不死で勇者だといわれても、だれも疑いはしないだろう。老紳士の力量の底が僕には分からなかった。

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