第29話 強がり

 村には案外早く着くことが出来た。しかし、エミリーとリンダの姿はどこにも無かった。


 町の人々に話を聞いてみると、二人は街にある公益所に向かったらしい。


「エミリー。リンダ。大丈夫かな。」

思わず声に出したが、正直心配なのはリンダだ。交易所でなにか問題を起こしていないといいのだが……


――バン。

 風船を弾けさせた音に似た、破裂音がした。小さかったらまだ可愛げがあるが、聞こえてきたのはそれとはかけ離れた鬼のような一撃が決まった音だった。


 終わった。恐らくリンダが問題を起こしたのだろう。早く対処しないと、大変なことになる。強く地を蹴り音のした方向に走り出す。


 待っていたのは、正座を思わせる姿勢をしたリンダと、ハリセンを90度の角度で構えたエミリーだった。


 あたりはそれはもうきれいな夕焼けで、仮に家族がいれば一家で食卓を囲んでいるであろうその時に、僕の仲間は全員修羅場を作り出していた。


「エミリー、大丈夫ですか?」

目立った怪我はないにしても、何を言えばいいのか分からなかった僕には、これしか言えなかった。


 だがエミリーはこちらを向かず、背中を向けながら言った。「リンダが、お店に並んでいる商品を、所構わず食べ尽くしてしまって……私は止められなくて。」エミリーは怒っているのか悲しいのか、肩を震わせながらリンダを見下ろしていた。


「リンダ、何か言い残した事はあるか?」僕はすかさず、傷を受けるか受けないかギリギリの斬撃を、リンダに仕掛ける用意を始めた。


「ち、違うのだよ。朕はただ、皆を救おうと、死なせまいと配慮しただけじゃ。」リンダもエミリーと同様に、震えながら僕に訴えかけて来た。


 僕は斬撃の用意を解くと、エミリーの方に向き直り、ある提案をした。エミリーは納得したのか、顔を赤らめながら宿に戻った。


 その後は大変だった。エミリーが言った通りリンダは、謎の力によって街中の商品を食い尽くしていた。


 その合計はなんと、僕の所持ゴールドを全て消費尽くしても足りない程で、追加で50万ゴールドを用意しなければならないことが分かった。


 確かに結果だけを見るなら、リンダは間違っているのかも知れない。だけど、僕はリンダを信じてみたいと思う。たとえそれが、間違っていたとしても。


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