第20話 覚醒



「――ごめんなさい。」


 一体何度その言葉を、言ったのだろうか


 血飛沫が舞い踊り、水晶の部屋が赤く染った。


「何故?」私自身が彼を、人間離れした再生力を持つ彼を殺傷し続けているのに、なんで私は見ている事しか出来ずにいるの?


 行き場を失った怒りが、精神までを支配して私を襲い続けてくる


 床の水晶は血で赤いのに、それは私の物ではない事がどんなに辛いかを、痛いほど知った


 だから、鉄の匂いしかしない、この最低な状況を変える為に、私は自害しようと、素手で喉を切断しようと試みたが、歯が私よりも先に彼の方に向き、又もや彼を殺す


 ・・・・・・何も変わらない、何も変えられない私の弱さが、憎くて仕方なかった


「嫌ぁぁ嫌ッ、もうこんな事したくないッ」


 私の意志とは乖離して、スキルによって無様にも彼を殺し続けているこの状況を、どう変えれば良いか


 床の水晶は、赤を通り越して黒ずんでいき、変わらない時を刻んでいた


 しかし、少年は死んではいなかった。


 死んだのに生き返ってるのか、死ぬ前に再生しているのかは、私には分からない。


 しかし状況は変わらず、私の意志と乖離して、私は彼を殺し続けた


 辛いのだろうか、苦しいのだろうか、想像を絶する痛みなのは、それを与えている私自身がよく分かってるつもりだったけれど


 私のしている事を思うと、思わず吐き気がした


 声も出せない、体の自由もきかない、出来ない事しかないなんて、本当に有り得ない


 どうすれば彼を、私自身を助けられるのかを、考えた

 

 だけど結局分かったのは、私が無力過ぎる存在という、終始変わる事の無い事実だけだった


 













 このダンジョンに入る前の話だ。どれ程前かは忘れてしまったけど、何をしたのかだけは鮮明にそして繊細に覚えている


「――エミリー!しっかりしな、全くあんたって奴は。」


 そう言って激を飛ばして来るのは、雇い主のババスさんだった


 何故叱っている筈のババスさんが、私よりも先に割れたお皿を片付けているのか。


「大体、あんたって奴はいつもそんなドジをして、恥ずかしくないのかい?」


 そっか、ババスさんはあの時から優しかったんだ


「エミリー、あんたが別に何枚皿を割っても、料理をひっくり返しても、怒るだろうが、あんたを追い出したりはしない。」


 ババスさんは、皿を片ずける間にそれだけを言って、厨房の奥に入って行った。


 私はそんなに惨めに見えていたのかな、ババスさんの優しさに助けられる一方、その優しさに戸惑う事もあったと思う。


 独りで生きて行くと決めた筈なのに、優しさに甘えてしまった私が居た


 私はそんな日々を繰り返していたから、油断しきっていた


 そして、油断をしていた私の元に、現実は厳しく平等に、降り掛かって来る


「――開けろ!開けるんだッ!大人しく白銀の悪魔を差し出せば、死刑だけは免除される。だから早くこのドアを開けるんだ!」


 私はその時思わず、行ってしまいそうになった。何故なら、もうこれ以上ババスさんに迷惑を掛けるくらいなら、処刑された方がマシなのではないかと、その時は思ったからだった。


「ここには悪魔なんて居ないよ。」


 ババスさんは微笑んだ。


「ここに居るのは・・・・・・私の、可愛い、可愛いッ娘だけだ!」


 その後の事は上手く説明できない。目の前でババスさんが光の矢で貫かれ、私を庇って亡くなってしまったことや


 ババスさんの残した遺書のお陰で、死刑を免れ奴隷として生かされたこと、奴隷として売られる前に消されそうになったことなど


 様々な事があったように、私は感じていた。


 それを私は、全て白銀の瞳の所為にして、現実から逃れようとしていた。


 愚かで、どうしようも無いお馬鹿さんだ。


 今だって、自分の所為で苦しんでいる人がいるのに、何も出来ずに諦めようとしている。


「――私は弱い。」


 だからこそ今度こそ私は、


「強く、もっと強くッなるんだ!」


 その瞬間、彼が、否、私は覚醒した。






―――――――――――――――――――――――





 一体何回死んだら気が住むのだろうか、そして僕よりも遥かに強いのになぜこの人はそんなにも余裕の無い顔をしているのか。


・・・・・・殺されているこっちが悪者みたいだ


 剣術のレベルが上がった事で威力も上がったと思うんだけど、こんなにも簡単にいなされてしまった


 だけどさっきから、少し攻撃が弱まっている気がする。何かが影響しているのかも知れない、そして、暫くそのやり取りを続けた後、いきなり吹き飛ばされた


「――ッ痛いが、ダメージは無さそうだ」


 水晶の壁に当たって死亡しそうになる言うと、情けなく聞こえるだろうが、僕は結構痩せ我慢が好きなんだ


 足を怪我したみたいだが、何とかなるかもしれない、向こうも相当なダメージを・・・・・・受けてないな


「やっぱり駄目かも。」


 そんな呑気な事を考えながら僕は、彼女の方へと走り出して行った。






―――――――――――――――――――――――




どうも、作者の椋鳥です。


最近は本当に寒いですね。


続きも頑張って書いていくので、応援、宜しくお願いします。


最後になりますが、誤字脱字等ありましたらコメントで書いていただけるとありがたいです。
























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