第176話 戦う訳

「斬撃。」息をするように、言葉を吐いた。強者に、この声は届いていたのだろうか?届いていたら少し嬉しいような気もするけれど、戦略的にみるなら残念というべきだろう。


 届け……この斬撃には様々な人の力が、魂が宿っているから。この斬撃で叶わないのなら、その時はその時。だけど、今だけはどうか強者を打ち砕く力を僕に。瞬きのような短い時間でいいから。


「……。」黒衣の中から見えた芸術品が、僕を見据えていた。強者はただ、数多の敵と同じように僕を捉えているのだと思った。そして、今まで殺めてきた人たちの上に、また屍を築いていくつもりなのだろうとも。


 そこに、何かが転がっていた。よく見るとそれは黒い衣を纏っていて、先ほどまで相対していた人物だということが分かった。当たったのか、僕の斬撃が。いつの間にかに終わってしまった戦いに、頭も心も追いつかなかった。


 いや、先ずは公的な機関に身柄を引き取ってもらうのが先か。僕は強者を世界に幽閉した。



 


 

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