第51話 視線

「寝れたか?旅人よ。」朝になっていたらしい。そして、生まれて初めて旅人と言われ、少し動揺した。「時間の感覚が少し。」頭を軽く叩く素振りを女性に見せながら、僕はとぼけてみせた。


「戻りたいだろう。」女性は急に優しく僕に語りかけた。その為には、今は大人しくしていなければならないことも、僕はよく分かっているつもりだった。「今すぐにでも。」綺麗な言葉で収まり切る思いではない。ぐちゃぐちゃに絡まった糸の様な感情が、僕の心を支配している。


「後5日、ここにいろ。」女性は早々と部屋を出ていった。余韻など何も残さず。後5日……か。短いようで居て、思わぬほどに長い時間だ。だけど、その期間さえ待てば、きっとまた二人と会えると、僕は信じている。


「魔力感知。」雨の滴った後の土が、ドロっと体を落ちていった。あり得ないほどの魔力が僕の体から落ちていったのだ。魔力感知は、使えば使うほど、どんどん消費魔力が大きくなっていく魔法だとは聞いていたけれど、ここまでとは。


 僕は起きて早々、眠り始めてしまった。






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